ヴェルディ等サッカー、漫画、アイドル 他
読書日記(’18.3.19) ~"イギリス"と"資本主義"
2018年03月19日 (月) | 編集 |
二冊の本をこのテーマでまとめてみました。




『イギリス史』川北稔編


一冊目。
カナダスペインに続いてのイギリスでしたが、一番面白かったのは"古代"のケルト人とゲルマン人とバイキングと定住バイキングの"フランス人"が入れ替わり立ち代わりブリテン島の主導権を争っていた頃(笑)。あとローマ人か。(意外と影薄い)
・・・しかもその誰も、別に"原住民"ではないという、混沌。(笑)
中世に入ると、単なる王侯貴族の内輪もめ。誰が誰だか。


で、話はいきなり飛んで、18世紀以降の近代&産業革命・資本主義の時代に。

p.232

「財政革命」がイギリスでのみ成功した理由は、(中略)納税者の階層の利害を反映しえた議会による保障があったことがあげられている。


"財政革命"については後述。次の本で。
「民主主義」というと今日ではとかく"意思決定の遅滞・不能"性が語られることが多いですが、民主主義のトップランナーイギリスの場合、むしろ議会の"代表"性に国民(納税者)が納得出来たから、大きな政策転換を有機的に行えたという、そういう話。
まあ本来はそうでしょうね。「民意」の反映というのは、つまり"自発性"ということなので。
ただ"代表"者と"有権者"の関係がおかしくなると・・・という。延々クレーム対応に追われるだけになる。


p.251

産業革命のためには、むしろ道路や港湾、運河のような交通手段などの社会資本の整備が重要であった。(中略)
工業化が国家目標となった後発国では国家が自ら整備したものである。しかし、イギリスでは一円の民衆の保護者という意識の強い地主ジェントルマンが、社会的威光のために、それを実行したといえる。


ほお。面白い。
"ジェントルマン"とは何かというと、簡単に言うと「社会的責務意識の強い金持ち」ですね。その"階層"と、そして"文化"
元は上にあるような要は大土地所有者ですが、後に金融関係者などに"金持ち"の中身が移っても、「文化」そのものは受け継がれます。特に"地主"時代には地域への貢献意識が強いわけですが、そこらへんを日本の感覚で言うと・・・「徳の高い庄屋さん」+「武士道」みたいな感じでしょうか。まあそもそも"庄屋さん"自体、一種の武士道の体現者だろうと思いますけど。
この項自体が言っているのは、イギリスにおける近代の"インフラ投資"は、専ら私人の地域貢献によってなされたということ。+利害意識。
その結果の産業革命が「成功」するということをイギリスが示したから、日本も含む後発国は、「国家」主導でより効率的徹底的にやろうとしたという話。広い意味での"開発独裁"?

道路は、十八世紀初めから有料道路として整備され、運河は一七六〇年代から急速に発達し、「運河マニア時代」を現出した。


だから最初は道路は「有料道路」で、そして運河は大々的な投機の対象になった。


p.358

すでに満州事変に際して、イギリスは主要列強のなかで日本にもっとも宥和的な姿勢を示していたが、再軍備の断行やラインラント進駐というナチス・ドイツによるヴェルサイユ体制への挑戦にたいしても、エチオピアにおけるイタリアの行動にたいしても、イギリスは同じような姿勢をとった。


日英同盟があったから優しかったのではなくて(笑)、基本的に全方位事なかれだったという話。
チャーチルが出て来るまでは。

p.364

四一年十二月、イギリス帝国内のマレー半島とハワイの真珠湾にたいする日本軍の奇襲攻撃によって、それまでヨーロッパとアジアでそれぞれ展開していた戦争が結びつき、戦争が真の意味での世界大戦の様相を呈するとともに、アメリカが参戦したとき、チャーチルは「これで結局われわれの勝利が決まった」と、安堵の念をもらした。


日本がアメリカを引っ張り込まなければ、真面目にナチス・ドイツ勝ったかもしれませんよね、少なくともヨーロッパでは。
日本の"余計なお世話"が、イギリスにとっては"大きな親切"だった(笑)。迷惑有難。


p.364

ファシズムに反対し、民主主義を守る戦争への参加は、イギリス国内での社会改革を要求する声と結びついた。(中略)民主主義のための戦争はそれを戦う国の内部での困窮の克服につながるべきあるとの主張がさまざまなかたちでなされた。


これは大変面白い話。
簡単に言えば、対ファシズム戦争による"民主主義"意識の昂揚が、"民主主義的"社会、つまり所謂「福祉国家」政策を一気に進めたという話。金は無かったんですよ、戦時中は勿論、戦後も。"意識"でやった。
一方で現代のアメリカは、"対テロ戦争"によって国内が"非民主化"したわけで、それとのコントラスト。多少アメリカに、酷な比較かも知れませんが。

p.367

かつては中流階級以上の家庭の印であった家事奉公人がこの戦争によってほぼなくなった点も注目に値する。


一方でこんな"悲劇"も。ああ、メイドさんが!(そういうことではない)
民主主義反対。


アイルランド

サッチャーを経てトニー・ブレア労働党政権の始まりまで一通り解説した後で、別にアイルランドだけを解説した章がつけられています。いわゆるUKの北アイルランドだけではなくて、アイルランド島全体の歴史。知らないことばっかりでした。

p.415

しかし、現在の北アイルランドには、一方で自らをイギリス人と認識し、北アイルランドをイギリス(連合王国)の不可分の一部とする、ユニオニストと称する人びともいる。


"北アイルランドの独立したい人たち"対"イギリス"というのはむしろ"後"の話で、本体は北アイルランド内部の争い。それがカタルーニャ等、各国の分離独立運動とは少し違うところ。
言い換えると北アイルランド紛争のとりわけ陰惨な感じは、その「内戦」性に起因するのかなという。
加えて言うと、"カトリック"対"プロテスタント"という「宗教戦争」性、それにそれぞれの背後勢力としてのアイルランド本国(北部六州以外の二十六州)とUKの「代理戦争」という側面も重なっています。
戦争を煮詰まらせる要素大集合という感じで、ほんと悲惨です。
ちなみに「北アイルランド」そのものは、そもそもプロテスタントが圧倒的に優位な地域がそれを大きな理由としてUKに残留したものなので、そこにおける"プロテスタント"対"カトリック"というのは、対等な争いというよりは"支配勢力"対"被支配勢力"の争いというのが、本来の性格です。
語弊があるかも知れませんが、南アのアパルトヘイトに近い印象。分離されているのは、「人種」ではなくて「宗教」ですが。

p.416

アイルランドにキリスト教がもたらされるのは、五世紀のことである。今もアイルランドの守護聖人として敬われている聖パトリックらの修道士たちによる精力的な布教活動により、アイルランドは、殉教者の記録がないほど順調にキリスト教化された。(中略)
七世紀ごろまでは(中略)西ヨーロッパのキリスト教の一大拠点でもあった。


へええ。ケルト(ドルイド教)と、特に喧嘩はしなかった模様。
多分伝わった"キリスト教"自体がそんなに"ローマ"的教条的ではなくて、なので後にローマが支配力を強めると、丸ごと「異端」的な扱いになってしまいます。
でもなんか今でも残ってますよね、キリストとケルトの、密やかな結合みたいな感じは。イギリスの、特にスコットランドを描いた"田舎"のドラマを見ると。ウェールズのドラマも、なんか変だったなあ。(笑)





『株式会社の終焉』水野和夫


二冊目。
結構話題なった本、かな?
堺屋太一が、「近代/成長経済の時代が終わってこれからはゼロ成長の「中世」が来る」ということを書いていたのを読んだ記憶があるんですが(子供の頃なので覚えてない)、主張的には一緒だと思います。
違いは経済学のディテールが細かいのと、堺屋太一が"終わった"と思った後に「電子空間」というフロンティアが発見されて成長経済は延命したわけですが、そのことも踏まえた内容になっていること。

好きなタイプの思想ですけど、本当かどうかは僕には分かりません。経済センスゼロです。(笑)


p.102-103

もはや税収だけでは賄いきれない戦費調達をいかにスムーズにするかが、戦争を勝利に導く決め手となりました。そこで、「名誉革命後の一六九二年に、議会が恒久的な税金を新設して、それを利払いの担保としたことによって国債が誕生した」(富田俊基「2006」p.56)のです。
イギリスは世界に先駆けて王国の借金ではなく、国民の借金、すわち「国債」を発明した。(中略)「王位と債務の継承が不確実な国王の借金の時代が終わり、永続的な機関である議会が借金を保証することによって、国民の借金としての国債の時代が始まった」


上で出て来た「財政革命」ですね。"国債"の発明によって、"財政政策"の幅が格段にかつ安定的に広がった。良くも悪くも。(笑)
税金を作って更にそれを担保にするって、どんな自作自演だよという感じがしますが。
ただ上の本で書かれていることからすると、当時の納税者はそれを支持したわけでしょうね。
この時の戦争相手はフランスですが、その後あらゆる戦争にこの手法は活用されます。

p.122

法律家は次の観点で株式会社批判的でした。(中略)エドワード・クック卿(1552-1634)にみられるように、「会社には魂がないため、反逆罪で捕まえることもできないし、法の保護を剥奪することも破門することもできない」というのです。


「法人」というのも一種の発明ですよね。トリックというか。(笑)
"実体が無いので責任を追及出来ない"という「非人間性」は、"王"ではなく"議会"が借金を保証するようになったという話とも、似ている気がします。
それ以前にも「国」や「家」の為に個人が特定不能な形で善悪それぞれの行為をする(問題となるのはたいてい"悪い"ことですが)ということは行われていたわけですが、それを経済的なシステムとしてより積極的に、ある意味無限に行うよう、会社特に株式会社という発明が促したという。

p.190

当時は印刷業界が最大の産業でしたが、貨幣経済となって300年以上も経つと、ラテン語を読める上流階級の書庫が満杯になりました。(中略)
そこで印刷会社や出版社は、俗語で宗教改革を迫るプロテスタント側につきました。印刷会社はルターが翻訳した聖書を売りまくりました


へえ。
・グーテンベルクが発明した活版印刷術の、当時の最初&最大の使い道は聖書の印刷である。
・ルターの宗教改革が成功したのは、かなりの部分、活版印刷術のおかげである。
ということ自体は、割りと知られた話だと思います。
ただここまで積極的な、「印刷業界」の関与があったというのは、初耳でした。ほとんど"陰謀"。(笑)


肝心の「株式会社の終焉」の話が出て来ませんけど、基本ちょっと僕の手に余るので。
簡単に言えば、上でも書いたように"成長"の余地が無くなるので利益極大化を目的とする組織が成り立たなくなる・必要無くなるという話です。"グローバリゼーション"はむしろ最後の詰めで、つまりアマゾンなりグーグルなり、誰かが「世界征服」したらそれで終わるわけです。誰が勝っても、別にパイ自体が広がるわけではない。誰が勝とうが庶民には関係無いというか。(笑)

以上です。
アメリカアメリカのご時世ではありますが、なんだかんだやっぱり「近代」は、「資本主義」は、イギリスなんだなあという感想。
アメリカはその規模が大きいだけ。ほとんどは過去(のイギリス)に例のあるもの。


スポンサーサイト



テーマ:読書メモ
ジャンル:本・雑誌
コメント
この記事へのコメント
No title
アメリカの近現代史という点では、
「日米衝突の根源 1858-1908、渡辺惣樹」あたりをお薦めしますね。イギリスからアメリカに覇権が交代する過程(の準備段階)で、アメリカは政治的・経済的にどう動いていたのかが、よく分かります。
2018/03/22(Thu) 21:59 | URL  | リカルド #JalddpaA[ 編集]
No title
基本色んな国の「概説」「通史」を勉強しようという企画なんですが、まあアメリカだとほぼほぼ「近現代史」になってしまうでしょうから(笑)、その際には参考にさせていただきます。
2018/03/23(Fri) 11:20 | URL  | アト #/HoiMy2E[ 編集]
コメントを投稿
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック