ヴェルディ、代表、二次元、女子バレー 他
"ファンタジー史劇"ということの本当の意味
2019年02月21日 (木) | 編集 |
前回書こうと思っていて書き切れなかったこと。


振り返ればそこにファンタジー史劇

この前の記事で、だいたい2010年くらいからの中国ドラマの大きな潮流として「ファンタジー史劇」(時代劇)というものがあって、それがどのような特徴を持っていてまたどのような種類があると考えられるのかという話をしました。
定義としては、「史劇/時代劇のスタイル・ストーリーを基本としながらも、設定や人物の表現等に顕著な"ファンタジー"要素を持つもの」というあたりで、まあいいと思いますが。

しかしこれは定義を広くあるいはより本質的に採れば、別に「最近の中国ドラマ」についてに限った話でも中国ドラマの専売特許でも特殊ジャンルでもなくて、実は我々も既によく知っているお馴染みの"ドラマ"スタイルだと言えると思います。
知らないって?いえ知ってますよ。
"代表的"なファンタジー史劇と言えば、例えば・・・『ベルサイユのばら』



フランス革命の時代を舞台に、架空のスーパーヒロイン"オスカル"が大活躍する、華麗かつ骨太なファンタジー史劇です。

ベルばらでは古過ぎるというなら新し目の作品で行きましょうか。では2011年開始で現在も新シーズンが全世界から待望されている、『ゲーム・オブ・スローンズ』



ゾンビやドラゴンや巨人がぞろぞろ出て来る大"ファンタジー"でありながら、グレートブリテン島とヨーロッパ大陸の歴史と地理を巧みに重ね合わせた舞台設定の元、神話的かつ現代的な超本格的人間ドラマを描き出している、これなんかはむしろファンタジー史劇の"典型"的作品とすら言えると思います。

典型の次は"変則"に目を向けると、まだありますね超有名作品が。かの『スター・ウォーズ』シリーズ。



一応は"SF"ということになるんでしょうが、黒澤明『隠し砦の三悪人』を下敷きにした一種の"宇宙時代劇"的性格を出発点として持っている作品だというのは、有名な話ですね。"SF"としての本格性よりも説話的ストーリーの典型性の方を優先させた、"ファンタジー"に近い作品だというのも明らかですし。

というわけで、実はみんな大好き"ファンタジー史劇"という、そういうお話(笑)です。


されどファンタジー史劇

このように挙げて行くと、"ファンタジー史劇"と中国(アジア)ドラマをめぐって改めて言われるようになったドラマスタイルが、一般的・・・かどうかはともかくこうした金字塔的なカリスマ作品を各ジャンルで生み出すような、少なくとも"面白"さのポテンシャルの非常に高い形式だということは、言えそうに思います。

ただ"カリスマ"だということは逆の可能性もあって、つまりこれらが稀少な作品でもあるということ。
例えば『ベルばら』は少女漫画(アニメ)の代表的作品ではありますが、では似たような作品が沢山あるか"オスカル"が沢山いるかというとそんなことはなくて、作者池田理代子さんの資質や教養、実は「男の軍人が描けないから女にした」(LaLaTVインタビューより)という"偶然"なども含めて、色々なものがぴたりとはまって、ああいう性別やジャンルや世代を越えた"空前絶後"に近い作品になったように見えます。
あるいはヨーロッパ中世(古代)の王族貴族や戦乱を描いた(多くは陰鬱で残酷な)史劇ドラマ・映画は欧米に少なからずありますし、同様に剣と魔法とドラゴンのファンタジー作品も枚挙にいとまがない程あるわけですが、一見それらをくっ付けただけにも見える『ゲーム・オブ・スローンズ』のクオリティや人気に、匹敵どころか近い作品も、ほとんど見当たらない気がします。

『スター・ウォーズ』に関しては、"スペース・オペラ"という意味でのジャンル自体は比較的ありふれたものですし、内容的に(前二者のような)特別深いものもユニークなものも作品としては無いと思いますが、ただ第一作が公開された1977年当時の特撮技術(まだSFXとかいう言葉は無い(笑))も含めて、あれだけのスケール感やメジャー感、"みんなが思う理想的なスペースオペラ"をともかくもまとまった形で「実現」した、そのことに作品の基本的な価値はある(あった)のだと思います。部分的にスター・ウォーズより面白いスペース・オペラもSFも多分沢山あるけれど、ジャンルの存在自体を全世界的に体現して、"旗"を掲げて立っている、公的かつ唯一的な存在感。それは同時に、寡占的排他的存在感とも言える。

まとめると、"面白さ"のポテンシャル自体はとても高い、当たると大きいファンタジー史劇ではあるけれど、その"大きさ"(あからさまさ)のゆえか意外と当て難い作り難い、特権的な成功例とその他有象無象みたいになりがちという、そういう構造があるように思います。
そしてそうした状況下での昨今の中国ドラマ界、"ファンタジー史劇"界の大きな特徴は、その"難しい"はずの量産が意外と利いている、一定レベル以上の"成功"したファンタジー史劇が次々に出て来るので驚かされる、そういうところにあると思います。


『ゲーム・オブ・スローンズ』と中国ドラマ

その状況感の一つの例として、僕が(実は)"典型的"ファンタジー史劇と評した『ゲーム・オブ・スローンズ』と中国ドラマとの関係を考えてみると。

まず前提として、『ゲーム・オブ・スローンズ』は僕自身も大好きなとても優れたドラマで、誰が言ったか「海外(orアメリカ)ドラマ史上最高傑作」という触れ込みも、満更大げさではない作品だと思います。その可能性は十分ある。
しかし余り意味の無い想定かも知れませんが、仮にもし『ゲーム・オブ・スローンズ』が中国で作られていたら、そこまで突出した作品ではない、なかった可能性が高いとも僕は思います。クオリティ的にもそうですし、スタイル的には尚そう。簡単に言えばゲーム・オブ・スローンズ"みたいな"作品は、中国には他にも少なからずあるからです。アメリカ(ないし欧米)でのような、比較を絶した地位は得られなかったと思います。

ここらへんはさっき言った『スター・ウォーズ』の話と似ていて、アメリカドラマ界における『ゲーム・オブ・スローンズ』のまずは大きな存在価値としては、現代においてあんな作品が"実現"したというところにあるわけです。実現した理由としても、結局は優れた原作小説が存在したという理由が大きくて、オリジナルであんな企画はなかなか出て来ない、出ても通らない、そういう可能性が高かったと思います。・・・"ファンタジー史劇"が難しいというよりも、現代のアメリカ人の鑑賞に足る/広範な視聴者を期待出来るファンタジー史劇を作れる当てが、原作の存在抜きでは考え難いということ。
そこらへんは中国ドラマの場合は、まずもって「史劇」の部分はクリアされている、鑑賞に足りて視聴者を期待出来る史劇ドラマの方は容易に計算出来るので、ハードルはだいぶ低い。後は"ファンタジー"の部分があるだけ。

・・・関連してちょっと細かいことを言うと、『ゲーム・オブ・スローンズ』のアメリカにおける"ファンタジー史劇"性と、中国ドラマの一連の作品のそれは、微妙に違うと言えば違うんですけよね。
どういうことかというと、『ゲーム・オブ・スローンズ』の場合は、世界観自体がゾンビやドラゴンの世界→"壁"の外の野人の世界→壁の内部や南方の"辺境"の世界→中央の繁栄する文明の世界と同心円上に出来上がっているように、要するに一種の「総合」ドラマ、"あらゆる"ドラマ技法の結集として作られているわけです。だから唯一というか、やったもん勝ちの特権的な作品になる。"技法"としては、「ファンタジー」→「史劇」→「現代劇」の主に三重構造ですかね。
対して中国ドラマの場合は、割りと単純に「史劇」+「ファンタジー」の足し算で、そこにバリエーションを加えれば比較的容易に"量産"も利く、そういう違いはあるかな。

結果出来上がったものには、そんなに違いはないと思いますけど。強いて言えば『ゲーム・オブ・スローンズ』が持つような"現代劇"としての強度は、中国産のファンタジー史劇にはなかなかそこまでのものはない。元々が「史劇」ですから。緻密な描写や優れた洞察はあっても、自ずと時代劇的な様式性や世界観の限界は被さって来る。(そうじゃないと逆に史劇として違和感が出て来る)
単に"ドラマ"として作られている『ゲーム・オブ・スローンズ』と、"史劇"として作られている中国産ファンタジー史劇の違い。

まあそれも程度問題と言えば程度問題なので、とにかく『ゲーム・オブ・スローンズ』を気に入っている欧米ドラマ視聴者の方(かた)には、ごちゃごちゃうるさいことは抜きにして(笑)ゲーム・オブ・スローンズ"みたいな"ドラマが沢山ある世界というものを、想像してみて下さいということです。楽しそうでしょ?(笑)
上ではゲーム・オブ・スローンズの方が優れている面について言いましたが、逆も当然あります。例えば"ドラゴン"の処理の仕方などは、中国ドラマの方がもう一段二段洗練していると思いますね。出し慣れてますから(笑)。ゲーム・オブ・スローンズの最近の二章くらいは、ドラゴンが余りにも"万能兵器"化していて、正直僕はちょっと興醒めするところがありました。ありませんでしたか?

以上アメリカドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』と、現代中国の特にファンタジー史劇界との関係について、少し書いてみました。


日本のファンタジーアニメとの比較

ここでまた視点を転じて、"ファンタジー"と言えば無視するわけにはとても行かない、日本のU局や深夜で日々量産されているファンタジー系アニメについても触れておきます。僕のここまで使って来た緩い(笑)分類に従えば、それこそファンタジー史劇系の作品、ファンタジー設定を盛り込んだ架空史劇、中世的な国家や社会でのあれこれを比較的シリアスに描いたタイプの作品は、むしろ日本のテレビアニメの"主力"と言っても過言ではない部分があると思います。最近一、二年の作品で言っても、『盾の勇者の成り上がり』『ソードアート・オンライン アリシゼーション』『バジリスク ~桜花忍法帖~』『グランクレスト戦記』『ナイツ&マジック』など。『アンゴルモア元寇合戦記』・・・はどうなんだろう。あれはもっと純粋な"史劇"なのか。

とにかくスタイルとしてはむしろ"ありふれている"に近くて、その意味では中国ドラマに近い状況にも一瞬見えるわけですが・・・。
でもちょっとそれは違うと思うんですよね。やはりアニメはアニメで、実写とは違う。
と言って別に下に見るわけでは勿論なくて、要は"ファンタジー"の実現が余りにも容易なわけです、アニメの場合。だから先に述べたような『スター・ウォーズ』『ゲーム・オブ・スローンズ』的な、"実現"の快挙感、そこからもたらされる興奮、良い意味のストレス感が無い。だから『ベルばら』くらい気合入れて史劇性と格闘するか、『銀英伝』並みに"史劇"としてのしっかりした基礎でも感じさせないと、あえて"ファンタジー史劇"という概念を使う必要性が余り感じられない。単に"ファンタジー"でいいよね(ないしSF)という感じになる(笑)。"史劇"の一分野というより"ファンタジー"のいち類型というニュアンスが、余りに強いというか。

この前の記事では中国のファンタジー史劇の人物描写に「二次元性」が濃いという話を確かにしましたが、それはそれとしてそれ以前の問題として、やはり実写、現実の人間を使ってファンタジー世界を実現する"ストレス"というものを中国のファンタジー史劇も引き受けてはいるので、そこから生まれる緊張感、"合成"スタイル感は、やはり単なるファンタジーアニメとは違うレベルのものであると思います。

というわけでベルばらのような一部の作品を除けば、別枠で考えた方がいいというのが、僕の意見です。


[まとめと若干のガイダンス]

まとめると、

1.「ファンタジー史劇」は中国(アジア)ドラマ特有のジャンルではなく、古今東西に目覚ましい成功作を既に抱えている、実は馴染みの深いドラマの有力ジャンルである。
2.一方で製作のハードルは意外と高く、潜在的需要の割りに正面切って作られることは余り無い。
3.近年の中国ドラマ界の特徴は、そのような「ファンタジー史劇」の一定水準以上の作品の、ある程度の量産に成功しているところにある。
4.それには「史劇」ドラマの今日でも堅固な伝統と、もう一方のファンタジー系フィクションのこれも強固な伝統の双方を持つという、中国ならではの理由があると考えられる。(前回の記事と併せて)

と言ったあたりですかね。
これ以上はやはり、個別の作品を取り上げながらでないと。


というわけで以下に今すぐ誰でも無料でお試し出来る、中国産ファンタジー史劇を見られるサイトを紹介しておきます。

まず純粋にお試しとしては、GYAO。冒頭1~3話のみの無料配信。

超おすすめ
琅や榜 -麒麟の才子、風雲起こす-(2015)
酔麗花~エターナル・ラブ~(2017)
永遠の桃花~三生三世~(2017)

おすすめ
歓楽無双~恋する事件帖(2014)
金蘭良縁(2014)
花千骨(はなせんこつ)~舞い散る運命、永遠の誓い~(2015)

見る価値あり
風中の縁(2014)
ハンシュク~皇帝の女傅(2015)

参考
琅邪榜(ろうやぼう)<弐> ~風雲来る長林軍~(2017) ・・・2015年の作品の続編


こんなところですかね、僕のおすすめは。(他にも見られる作品自体は沢山あります)
ついでに"ファンタジー"抜きのも挙げておくと、

宮廷の諍い女(2012)
大秦帝国 縦横 =強国への道=(2012)
隋唐演義 ~集いし46人の英雄と滅びゆく帝国~(2012)
月に咲く花の如く(2017)
昭王~大秦帝国の夜明け~(2017)

ここらへんはかなりおすすめ。
ああ、ただ『縦横』は傑作なんですけど、1話は主要メンバーも揃わないでそれほど面白くなかった記憶が。
だいたいが中国ドラマはスロースタートな傾向があるんですよね。アメドラなんかは、"1話"に全てを賭ける傾向がありますけど。「パイロット版」という習慣もありますし。そこらへんは少し違う。

それからAbemaTV

『擇天記(たくてんき) ~宿命の美少年~』(2016)

こちらは現在無料配信中で、1話からフルに見られます。


スカパーやAmazonプライムやHuluやU-NEXT等にお金を払えば勿論もっとがっつり見られますが、ネットレンタルのぽすれんもかなり充実していて旧作なら50円から見られるので、お試しにはこちらもいいかも。
以上、簡単に紹介まで。

次回はもっと本格的に、中国ドラマの特性や歴史的意味、特にアメリカドラマ/映画との比較におけるそれについて、書いてみる予定です。


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テーマ:中国ドラマ
ジャンル:テレビ・ラジオ
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