2021年07月10日 (土) | 編集 |
前々から一度作ってみたいなと思っていたリストなんですが、最近立て続けに"時代"を説明するいい作品に会えて、何とか駒が揃って来た感があるのでここらで実行。
基準としては、既にDVD化されていて見ようと思えばネットレンタル等で安価で見ることの可能なもの。勿論新しめの作品については、各映像配信サイトで見られる場合も少なからずあります。
それから内容的に、まずはその「時代」をなるべく包括的に描いていて"歴史"が分かるような内容で、なおかつクオリティ的にも一定以上で僕的にお勧め可能なもの。
"20本"という本数についてはそこまで要らないと言えば要らないんですが、さりとて"10本"では到底無理なので、切りのいいところで余裕を持って、この本数にしました。
尚歴史区分については、「中国の歴史」日本語Wikiに基本的に準じています。
また僕が見た限りの中国歴史ドラマ全作品を、背景時代別に分類したものはこちら。
まずは先に一覧を。時代順に。
一部決めかねている時代もが無くは無い(笑)んですが、とにかく20時代のべ20本。
以下解説・注釈を。
1.「春秋」(東周)時代
初っ端からいきなり悩みます。
例えば韓国だと「高句麗」「新羅」「百済」三国を筆頭に様々な"国"のしばしば神話的な起源や時代について割と大真面目な歴史ドラマがよく作られる(『朱蒙 チュモン』[高句麗の祖]、『鉄の王 キム・スロ』[伽耶の祖]など)んですが、中国人には余りそういう関心は無いようで、「夏」や「殷」は勿論「周」についてすら、まともに描いた作品は現在までのところ見当たりません。
・・・一応殷末から周の建国期を舞台にした『封神演義』[封神榜之鳳鳴岐山](2006)

などもあるにはあるんですが、中身はひたすら妖術合戦やってるだけですし40話使ってまだ半分、続編の『逆襲の妲己』まで見ないと周の建国には辿り着かないので、とてもお勧め出来ません。(笑)
というわけでその周の300年に及ぶ盟主支配が緩んで(西を根拠としていた周が東に遷ったので「東周」時代とも)各諸侯国が歴史の主役になり、所謂"諸子百家"も登場して今日に至る中国「文化」の創始期とも言える"春秋戦国"時代の前半「春秋」時代を、リストのスタートとします。
作品候補(1)

『中国儒学の始祖 孔子』[孔子](1990) 全16話
少年時代から始まる孔子の生涯と思想を、("中国ドラマ"という)ジャンル草創期ならではのピュアさで真正面から描いた力作。孔子の遍歴を辿ることで(孔子の出身国)"魯"を筆頭とする当時の春秋各国の国情もひと通り見ることが出来ますし、概ね定説的なよく知られるエピソードをなぞりながらも思想の"内部"に踏み込もうとする真剣さも十分ですし、内容的な文句は無いんですけど。
ただ・・・映像が(笑)。そもそも孔子一行が基本貧乏だというのもありますが(笑)、ようやく'80年代中盤に始まったばかりの中国ドラマの歴史の浅さと今のようにリッチではなかった経済事情の問題もあって、これ今の"ドラマ"ファンに見せていいんだろうかというクオリティ、見映えで。


なんか全体的に黄色っぽいですし、裏"ビ〇オ"ですか?なんてことを、世代的に思ってしまう瞬間もありました。(笑)
古い映画やドラマも好んで見る、映像の見映えには余りこだわらない僕でも若干びびりましたから、なかなか一般には。内容はいいんですけどね。古くて古典的だけど、"古臭く"はない。
というわけで作品候補(2)も。

『復讐の春秋 臥薪嘗胆』[臥薪嘗胆](2007) 全41話
こちらも画面の暗さの印象の強い、決して映像的に"きらびやか"な作品ではありませんが、こちらはまあ、"蒼然"とした"古色"を狙った"古代"感の「演出」という見方で、基本いいと思います。(お金がありそうな感じもしませんが(笑))
この作品に問題があるとすればそれは題材が"臥薪嘗胆"、つまり「呉越」戦争だということで、故事は有名でも呉越自体は当時の中国の南方の辺境の二国なので、上の"孔子の遍歴"に比べると歴史のメインストリームの描写とは言い難いということ。
それを気にしなければドラマとしては、まるで"漢籍"そのものを読んでいるような古代的な様式美に溢れた傑作なので(俳優陣最高です)、この"時代"の代表的表現として何ら問題はありません。
というわけでどちらを見てもらっても構わないんですが、出来れば『孔子』の方にトライしていただくと、内容的にも映像的にも、普段余り出来ないようなタイプのドラマ体験は出来ると思います。(笑)
2.「戦国」(東周)時代
"春秋戦国"の後半。各諸侯が続々と"王"を名乗り始め、いよいよ「周」室(周王)の存在価値が失われ、やがては滅ぼされる時代。

『キングダム 戦国の七雄』[風雲戦国之列国](2019) 全7話
燕、趙、楚、韓、魏、斉、秦の順で"戦国七雄"各国を、それぞれの歴史的理念的淵源から語り出し、どのように興亡したかそこにそうした"理念"がどのように関与したかを、多分に倫理的儒教的な観点で語り通した最近では珍しい(クソ)真面目な歴史ドラマ。有名な故事や人物を各国満遍なくおさらい出来る便利ドラマですが、特に最終的な"勝者"である秦の分析などは長所と短所の表裏性をかなり突っ込んで分析していて、はっとさせられました。含めて七国全てを一話ずつ公平な分量で描いているところも、見識というかこだわりが感じられて好ましいです。
僕が今回の記事を書く直接のきっかけになった作品の一つ。
3.「秦」末~「前漢」

『項羽と劉邦 King's War』[楚漢伝奇](2012) 全80話
始皇帝の治世末期から始まり「漢」の建国までの、有名な"項羽と劉邦"による所謂「楚漢戦争」の時代を描いた作品。
・・・ちなみに始皇帝の統一事業と秦の盛期については、『戦国の七雄』の内容でほぼカバー出来るのでいいかなと。そんな長い話でもないですし。
基本的には"最大公約数""総合""網羅"という企図の元で作られている作品ですが、その中でも劉邦の"やくざの親分"感や項羽の"スペックの高い間抜け"的なパーソナリティを無駄なヒーロー感をくっつけずにきちっと描いているところは評価出来るというか、監督頑張ってるなという感じです。後半に出て来る天才将軍"韓信"などは、それでスピンオフ作って欲しいと思うくらい独特で魅力的なキャラに仕上がってますし。(なので長いですが出来れば後半まで見て欲しいです(笑))
勿論上のような意図の企画なので、"教科書"性は申し分ないです。
4.「前漢」

『漢武大帝』[漢武大帝](2005) 全58話
"大帝"と称された漢七代武帝の一代記。
と言いつつ父親の六代景帝の時代を結構長々とやるので最初面食らいますが(一般に昔の中国ドラマ/中国フィクションは立ち上がりが凄くのんびりしている)、"武"ではなく"文"の皇帝であるその時代もそれはそれで味がありますし一方で国内の重要な大反乱なども起きるので、気にせずそういうものとして見て下さい。むしろ満を持しての武帝即位後は、しばらく武帝の直情っぷりが鬱陶しくて父親の時代を懐かしく思うかも。(笑)
武帝になってからの中心は何と言っても北方の匈奴との対決で、それまで延々と複雑な漢の国内事情を描写して来た甲斐もあって、単なる戦場の勝った負けたではなく、「国」と「国」とが総力を挙げてぶつかり合う"戦争"の立体感・重層性が、他の歴史ドラマでは余り見た記憶のないリアリティ・迫力で感じられて、見応えがあります。匈奴は匈奴で生存を賭けて必死に戦っていることもありありと伝わって来て、"決着"後の感慨も深いです。
父→子交代だけでなく、武帝役も大人になってから一回変わったり、また女性監督による妙に湿度の高い演出など変則的なところもありますが、総じて見て損はない作品だと思います。
5.「後漢」末~「三国」

『三国志 Three Kingdoms』[三国](2010) 全95話
『項羽と劉邦』と同じ監督(製作はこっちが先)による、中国史の中でも人気の時代を扱った同種の企画。歴史としては、栄光ある「漢」(前漢)が王莽の「新」による一瞬の簒奪の後「後漢」として復活し、しかしその後漢の統治も末期になり乱れまくったお馴染み"三国志"の時代。
前半は余りにそれこそ"最大公約数"的で、既に「三国志」自体に馴染んてる人には若干退屈だろうと思います(特に孔明の平凡さにはがっかりしました)。ただ後半、特に司馬懿がメインになってからは俄然ダークでアダルトな感じになって面白く、恐らくこちらが(『項羽と劉邦』にも繋がる)監督の本領なんだろうなという感じ。
知名度的に外せない時代ですし決定版と言えば決定版なので入れるとすればこれしかないだろうと思いますが、"おすすめ"度では今回のリストの中では一段落ちる感じ。見る人には赤壁までは我慢してくれ、その後から面白くなるからと、言っておきますか。(笑)
・・・まあ曹操の性格表現の複雑さとかには、最初から作品のポテンシャルは表れていると言えば言えると思いますけどね。
6.「南北朝」
まず"時代"としては、「三国」の後それをまとめた「魏」「晋」、それが分裂した後の「五胡十六国」などとも言われる忙しい時代が続き、その後南北それぞれの地域にいくつかの国々が興亡した時代、それが「南北朝」時代です。
取り上げるのはその最終盤、後の「隋」「唐」両統一王朝の母体ともなった北朝の「北周」を舞台とした作品。

『独孤伽羅 皇后の願い』[独孤天下](2018) 全55話
北周、隋、唐、それぞれの皇帝の正妃や生母を輩出した"独孤"家の三姉妹の物語。母系から見るある時代というか。ヒロインは末っ子で、後の隋初代楊堅の正妃。
上で説明したようになかなか煩雑なこの時代の、"前"とも"後"ともちょうどよく繋がるストーリーで、地味と言えば地味な時代ですけど便利なのでチョイス。・・・特に「隋」の建国を描いたドラマというのが見当たらないので、その代わりという意味もあります。
姉妹たちの恋愛を中心としたストーリーではありますが、恋人たちがみな重要人物なので、「歴史」ドラマとしてもきっちり機能しています。基本女性向けの作りで男性視聴者には厳しいパートも無くはないですが、特に男性形無しの知性と意志力を持った長姉(北周明帝の妃)の周辺を中心に、見応えのあるセリフやシーンも沢山あります。
・・・なお『独孤皇后 乱世に咲く花』[独孤皇后](2019)という紛らわしい作品があるので注意(笑)。そっちではありません。
7.「隋」末~「唐」

『創世の龍 李世民 大唐建国記』[開創盛世](2009) 全44話
隋二代(そして最終代)煬帝の治世から始まり、その臣であった李家が自立して隋を倒して唐を建て、更にその身内の争いを制して太祖李淵の次男李世民が二代太宗として唐帝国を確立するまでを描いた作品。
李世民が裏も表も無いスーパーヒーローに描かれ過ぎているきらいはありますが、それを除けば隋王朝や李家に連なる当時のありとあらゆるタイプの人々の行動がそれぞれにリアリティをもって描かれている、よく出来た群像劇だと思います。戦争ものかと思いきや、官僚のサバイバルものみたいな渋い面も強いというか。ほんと感心する程、色んな人が出て来ます。(笑)
8.「唐」(~「武周」)

則天武后[武則天](1995) 全30話
その李世民/太宗の寵愛をてこに成り上がり、いっときは李氏の唐王朝を断絶させて自らの姓である武氏の王朝(武周)を建てて見せた、中国史上唯一の女帝則天武后(武則天)の物語。
"則天武后"(武則天)ものはファン・ビンビン主演の2013年作品を筆頭に他にも沢山作られていますが、後に中国三大悪女の一人とも称される則天武后の"悪女"の部分と"政治家"としての偉大さを、両方きちんと描いているという意味では、結局この1995年作品が一番だと思います。始まりはメロドラマっぽいですが、最終的にはとてもしっかりした、堂々たる歴史ドラマになっていました。則天武后役の人本当に上手いなと思います。
9.「唐」(「武周」後)

『楊貴妃』[大唐芙蓉園](2007) 全30話
その則天武后による一時的断絶を乗り越えて復活・継続した唐王朝の、最盛期とも言われる時代を画した六代玄宗後半の治世を、有名な愛妃楊貴妃の生涯を通じて描いた作品。ファン・ビンビン主演。
楊貴妃の描き方が何か独特で、則天武后のように権勢を求める訳でもなければ玄宗との"愛"にも実は特に積極的ではなく、ひたすら受け身の傍観者に近い時代の被害者、しかし個人としては人格・才覚優れた女性として描かれています。
楊貴妃が傍観者的な分、「恋愛」ドラマにも「宮廷」ドラマにもなり切らず、結果的に"時代"や"歴史"そのものが主役になっているという感じのドラマ。それが意図的でないことはないんでしょうけど、作り手のメインの意図はやはり"楊貴妃"を描くこと、特に彼女の人柄や無罪性を描くことにあるのかなという感じ。クオリティは高いです。
10.「北宋」
まず時代の説明から。
上の『楊貴妃』の後半に起こる"安史の乱"辺りを皮切りに始まった混乱や周辺異民族の勢力伸長の果てに唐が滅亡し、その後「五代十国」と総称される小国乱立期を経て漢人王朝「宋」が一応統一王朝を樹立する訳ですが、その支配力は弱く契丹人の「遼」、それを滅ぼした女真人の「金」、更にそれを滅ぼして最終的に中国全土を支配する「元」を打ち立てるモンゴルと、次々現れる北方異民族(王朝)との戦いに、この時代の"歴史"の多くの部分は費やされます。
その内「遼」に"燕雲十六州"という万里の長城"内"一部領域の恒久的支配を許しつつも、一応全国政権の体裁を保っていた時代を「北宋」、遼を滅ぼした「金」(後にモンゴルにも)に北半分を支配され、南半分に支配地域を後退させた時代を「南宋」と一般に呼びます。
その「北宋」時代を舞台にしているのが、この作品。

『大宋少年志』[大宋少年志](2019) 全42話
北宋期の有名な物語としてはかの"水滸伝"があるわけですけど、あれはそれなりに深い時代背景も秘めつつ直接的には北宋のローカルな"内乱"(暴動?)の話でとても歴史の本流とは言えないので、その関係ドラマはまず却下。次に有名だろう"楊家将演義"はこちらは割と正統的な遼との"戦争"の話ではあるんですが、作られているドラマの出来が今一つ&本質的には"内紛"(宋朝内の足の引っ張り合い)の話で若干スケール感に欠けるというか「全体」観が得られ難いので、こちらも却下。他どれをとってもどうも上手くないなあと頭を悩ませていたところで出会ったのが、最近見たこの作品。
宋の子弟の中から選抜されたエリート少年少女からなる特務部隊の活躍を描くコミカル武侠探偵ストーリーとでも言うべき純エンタメ作品で、内容的にはフィクションもいいとこな筈なんですけど、設定上からも"宋への愛国心"を明確に軸に据えつつも、序盤から(東北の)「遼」は勿論、同時期に西北で勢力を誇っていた「西夏」側も含めた全力で魅力的な敵キャラクターたちと盛んに"交流"が行われ、今まで見たどんな「北宋」ものよりも効率的に立体的に、北宋(時代)の政治状況が自然に頭に入って来ます。相当よく出来たシナリオだと思います。
いちドラマとしても、ここ最近、2010年代中頃からの「中国(歴史)ドラマ」の美味しいところを寄せ集めて各々磨き上げた上で組み合わせた最高のパズルという感じで、そういう意味でも紹介しておきたい、サンプルとしてリストに入れておきたい作品。変則的な内容ながら。
まああえて言えば、"裏"国防ものとでも言える作品かも知れないですね。"特務"という意味でも裏だし、コメディタッチという意味でも。(笑)
・・・ここまで10時代(約)10作品、ここまでを前半と。
最初から特にそういう計画ではなかったんですが、結果的にこの時代までが、域外・長城外からのあからさまな「征服」という形でなく全国王朝が形成されて来た時代で、次の「南宋」からは上で説明したように金やら元やら、また後には「清」という形で、はっきりした"異民族"による"征服"王朝が次々形成される時代になるわけです。・・・「民族」的に厳密なことを言い出すとややこしいのでやめますが、少なくとも「中国人」の自意識的にはそうなはず。
そういう意味では、いい切りになったなと。あえて言えば・・・「ドメスティック」王朝の時代とでも言いますか。「中華」王朝とか言うと、何かまた違う気が。
続きは後半で。
基準としては、既にDVD化されていて見ようと思えばネットレンタル等で安価で見ることの可能なもの。勿論新しめの作品については、各映像配信サイトで見られる場合も少なからずあります。
それから内容的に、まずはその「時代」をなるべく包括的に描いていて"歴史"が分かるような内容で、なおかつクオリティ的にも一定以上で僕的にお勧め可能なもの。
"20本"という本数についてはそこまで要らないと言えば要らないんですが、さりとて"10本"では到底無理なので、切りのいいところで余裕を持って、この本数にしました。
尚歴史区分については、「中国の歴史」日本語Wikiに基本的に準じています。
また僕が見た限りの中国歴史ドラマ全作品を、背景時代別に分類したものはこちら。
まずは先に一覧を。時代順に。
春秋 『中国儒学の始祖 孔子』(1990) or 『復讐の春秋 臥薪嘗胆』(2007)
戦国 『キングダム 戦国の七雄』(2019)
秦~前漢 『項羽と劉邦 King's War』(2012)
前漢 『漢武大帝』(2005)
後漢~三国 『三国志 Three Kingdoms』(2010)
南北朝 『独孤伽羅 皇后の願い』(2018)
隋~唐 『創世の龍 李世民 大唐建国記』(2009)
唐(武周期まで) 『則天武后』(1995)
唐(武周期後) 『楊貴妃』(2007)
北宋 『大宋少年志』(2019)
南宋1 『射鵰英雄伝 レジェンド・オブ・ヒーロー』(2017)
南宋2 『神雕侠侶 天翔ける愛』(2014)
元~明 『大明帝国 朱元璋』(2006)
明 『大明王朝 嘉靖帝と海瑞』(2007)
明~清 『大清風雲』(2006)
清 『康熙王朝』(2001)
清~中華民国 『西太后の紫禁城』(1998)
中華民国 『功勲』(2007)
中華人民共和国(改革開放以前) 『プロット・アゲインスト』S1 or S2(2005)
中華人民共和国(改革開放以後) 『絶対権力』(2003)
一部決めかねている時代もが無くは無い(笑)んですが、とにかく20時代のべ20本。
以下解説・注釈を。
1.「春秋」(東周)時代
初っ端からいきなり悩みます。
例えば韓国だと「高句麗」「新羅」「百済」三国を筆頭に様々な"国"のしばしば神話的な起源や時代について割と大真面目な歴史ドラマがよく作られる(『朱蒙 チュモン』[高句麗の祖]、『鉄の王 キム・スロ』[伽耶の祖]など)んですが、中国人には余りそういう関心は無いようで、「夏」や「殷」は勿論「周」についてすら、まともに描いた作品は現在までのところ見当たりません。
・・・一応殷末から周の建国期を舞台にした『封神演義』[封神榜之鳳鳴岐山](2006)
などもあるにはあるんですが、中身はひたすら妖術合戦やってるだけですし40話使ってまだ半分、続編の『逆襲の妲己』まで見ないと周の建国には辿り着かないので、とてもお勧め出来ません。(笑)
というわけでその周の300年に及ぶ盟主支配が緩んで(西を根拠としていた周が東に遷ったので「東周」時代とも)各諸侯国が歴史の主役になり、所謂"諸子百家"も登場して今日に至る中国「文化」の創始期とも言える"春秋戦国"時代の前半「春秋」時代を、リストのスタートとします。
作品候補(1)
『中国儒学の始祖 孔子』[孔子](1990) 全16話
少年時代から始まる孔子の生涯と思想を、("中国ドラマ"という)ジャンル草創期ならではのピュアさで真正面から描いた力作。孔子の遍歴を辿ることで(孔子の出身国)"魯"を筆頭とする当時の春秋各国の国情もひと通り見ることが出来ますし、概ね定説的なよく知られるエピソードをなぞりながらも思想の"内部"に踏み込もうとする真剣さも十分ですし、内容的な文句は無いんですけど。
ただ・・・映像が(笑)。そもそも孔子一行が基本貧乏だというのもありますが(笑)、ようやく'80年代中盤に始まったばかりの中国ドラマの歴史の浅さと今のようにリッチではなかった経済事情の問題もあって、これ今の"ドラマ"ファンに見せていいんだろうかというクオリティ、見映えで。


なんか全体的に黄色っぽいですし、裏"ビ〇オ"ですか?なんてことを、世代的に思ってしまう瞬間もありました。(笑)
古い映画やドラマも好んで見る、映像の見映えには余りこだわらない僕でも若干びびりましたから、なかなか一般には。内容はいいんですけどね。古くて古典的だけど、"古臭く"はない。
というわけで作品候補(2)も。
『復讐の春秋 臥薪嘗胆』[臥薪嘗胆](2007) 全41話
こちらも画面の暗さの印象の強い、決して映像的に"きらびやか"な作品ではありませんが、こちらはまあ、"蒼然"とした"古色"を狙った"古代"感の「演出」という見方で、基本いいと思います。(お金がありそうな感じもしませんが(笑))
この作品に問題があるとすればそれは題材が"臥薪嘗胆"、つまり「呉越」戦争だということで、故事は有名でも呉越自体は当時の中国の南方の辺境の二国なので、上の"孔子の遍歴"に比べると歴史のメインストリームの描写とは言い難いということ。
それを気にしなければドラマとしては、まるで"漢籍"そのものを読んでいるような古代的な様式美に溢れた傑作なので(俳優陣最高です)、この"時代"の代表的表現として何ら問題はありません。
というわけでどちらを見てもらっても構わないんですが、出来れば『孔子』の方にトライしていただくと、内容的にも映像的にも、普段余り出来ないようなタイプのドラマ体験は出来ると思います。(笑)
2.「戦国」(東周)時代
"春秋戦国"の後半。各諸侯が続々と"王"を名乗り始め、いよいよ「周」室(周王)の存在価値が失われ、やがては滅ぼされる時代。
『キングダム 戦国の七雄』[風雲戦国之列国](2019) 全7話
燕、趙、楚、韓、魏、斉、秦の順で"戦国七雄"各国を、それぞれの歴史的理念的淵源から語り出し、どのように興亡したかそこにそうした"理念"がどのように関与したかを、多分に倫理的儒教的な観点で語り通した最近では珍しい(クソ)真面目な歴史ドラマ。有名な故事や人物を各国満遍なくおさらい出来る便利ドラマですが、特に最終的な"勝者"である秦の分析などは長所と短所の表裏性をかなり突っ込んで分析していて、はっとさせられました。含めて七国全てを一話ずつ公平な分量で描いているところも、見識というかこだわりが感じられて好ましいです。
僕が今回の記事を書く直接のきっかけになった作品の一つ。
3.「秦」末~「前漢」
『項羽と劉邦 King's War』[楚漢伝奇](2012) 全80話
始皇帝の治世末期から始まり「漢」の建国までの、有名な"項羽と劉邦"による所謂「楚漢戦争」の時代を描いた作品。
・・・ちなみに始皇帝の統一事業と秦の盛期については、『戦国の七雄』の内容でほぼカバー出来るのでいいかなと。そんな長い話でもないですし。
基本的には"最大公約数""総合""網羅"という企図の元で作られている作品ですが、その中でも劉邦の"やくざの親分"感や項羽の"スペックの高い間抜け"的なパーソナリティを無駄なヒーロー感をくっつけずにきちっと描いているところは評価出来るというか、監督頑張ってるなという感じです。後半に出て来る天才将軍"韓信"などは、それでスピンオフ作って欲しいと思うくらい独特で魅力的なキャラに仕上がってますし。(なので長いですが出来れば後半まで見て欲しいです(笑))
勿論上のような意図の企画なので、"教科書"性は申し分ないです。
4.「前漢」
『漢武大帝』[漢武大帝](2005) 全58話
"大帝"と称された漢七代武帝の一代記。
と言いつつ父親の六代景帝の時代を結構長々とやるので最初面食らいますが(一般に昔の中国ドラマ/中国フィクションは立ち上がりが凄くのんびりしている)、"武"ではなく"文"の皇帝であるその時代もそれはそれで味がありますし一方で国内の重要な大反乱なども起きるので、気にせずそういうものとして見て下さい。むしろ満を持しての武帝即位後は、しばらく武帝の直情っぷりが鬱陶しくて父親の時代を懐かしく思うかも。(笑)
武帝になってからの中心は何と言っても北方の匈奴との対決で、それまで延々と複雑な漢の国内事情を描写して来た甲斐もあって、単なる戦場の勝った負けたではなく、「国」と「国」とが総力を挙げてぶつかり合う"戦争"の立体感・重層性が、他の歴史ドラマでは余り見た記憶のないリアリティ・迫力で感じられて、見応えがあります。匈奴は匈奴で生存を賭けて必死に戦っていることもありありと伝わって来て、"決着"後の感慨も深いです。
父→子交代だけでなく、武帝役も大人になってから一回変わったり、また女性監督による妙に湿度の高い演出など変則的なところもありますが、総じて見て損はない作品だと思います。
5.「後漢」末~「三国」
『三国志 Three Kingdoms』[三国](2010) 全95話
『項羽と劉邦』と同じ監督(製作はこっちが先)による、中国史の中でも人気の時代を扱った同種の企画。歴史としては、栄光ある「漢」(前漢)が王莽の「新」による一瞬の簒奪の後「後漢」として復活し、しかしその後漢の統治も末期になり乱れまくったお馴染み"三国志"の時代。
前半は余りにそれこそ"最大公約数"的で、既に「三国志」自体に馴染んてる人には若干退屈だろうと思います(特に孔明の平凡さにはがっかりしました)。ただ後半、特に司馬懿がメインになってからは俄然ダークでアダルトな感じになって面白く、恐らくこちらが(『項羽と劉邦』にも繋がる)監督の本領なんだろうなという感じ。
知名度的に外せない時代ですし決定版と言えば決定版なので入れるとすればこれしかないだろうと思いますが、"おすすめ"度では今回のリストの中では一段落ちる感じ。見る人には赤壁までは我慢してくれ、その後から面白くなるからと、言っておきますか。(笑)
・・・まあ曹操の性格表現の複雑さとかには、最初から作品のポテンシャルは表れていると言えば言えると思いますけどね。
6.「南北朝」
まず"時代"としては、「三国」の後それをまとめた「魏」「晋」、それが分裂した後の「五胡十六国」などとも言われる忙しい時代が続き、その後南北それぞれの地域にいくつかの国々が興亡した時代、それが「南北朝」時代です。
取り上げるのはその最終盤、後の「隋」「唐」両統一王朝の母体ともなった北朝の「北周」を舞台とした作品。
『独孤伽羅 皇后の願い』[独孤天下](2018) 全55話
北周、隋、唐、それぞれの皇帝の正妃や生母を輩出した"独孤"家の三姉妹の物語。母系から見るある時代というか。ヒロインは末っ子で、後の隋初代楊堅の正妃。
上で説明したようになかなか煩雑なこの時代の、"前"とも"後"ともちょうどよく繋がるストーリーで、地味と言えば地味な時代ですけど便利なのでチョイス。・・・特に「隋」の建国を描いたドラマというのが見当たらないので、その代わりという意味もあります。
姉妹たちの恋愛を中心としたストーリーではありますが、恋人たちがみな重要人物なので、「歴史」ドラマとしてもきっちり機能しています。基本女性向けの作りで男性視聴者には厳しいパートも無くはないですが、特に男性形無しの知性と意志力を持った長姉(北周明帝の妃)の周辺を中心に、見応えのあるセリフやシーンも沢山あります。
・・・なお『独孤皇后 乱世に咲く花』[独孤皇后](2019)という紛らわしい作品があるので注意(笑)。そっちではありません。
7.「隋」末~「唐」
『創世の龍 李世民 大唐建国記』[開創盛世](2009) 全44話
隋二代(そして最終代)煬帝の治世から始まり、その臣であった李家が自立して隋を倒して唐を建て、更にその身内の争いを制して太祖李淵の次男李世民が二代太宗として唐帝国を確立するまでを描いた作品。
李世民が裏も表も無いスーパーヒーローに描かれ過ぎているきらいはありますが、それを除けば隋王朝や李家に連なる当時のありとあらゆるタイプの人々の行動がそれぞれにリアリティをもって描かれている、よく出来た群像劇だと思います。戦争ものかと思いきや、官僚のサバイバルものみたいな渋い面も強いというか。ほんと感心する程、色んな人が出て来ます。(笑)
8.「唐」(~「武周」)
則天武后[武則天](1995) 全30話
その李世民/太宗の寵愛をてこに成り上がり、いっときは李氏の唐王朝を断絶させて自らの姓である武氏の王朝(武周)を建てて見せた、中国史上唯一の女帝則天武后(武則天)の物語。
"則天武后"(武則天)ものはファン・ビンビン主演の2013年作品を筆頭に他にも沢山作られていますが、後に中国三大悪女の一人とも称される則天武后の"悪女"の部分と"政治家"としての偉大さを、両方きちんと描いているという意味では、結局この1995年作品が一番だと思います。始まりはメロドラマっぽいですが、最終的にはとてもしっかりした、堂々たる歴史ドラマになっていました。則天武后役の人本当に上手いなと思います。
9.「唐」(「武周」後)
『楊貴妃』[大唐芙蓉園](2007) 全30話
その則天武后による一時的断絶を乗り越えて復活・継続した唐王朝の、最盛期とも言われる時代を画した六代玄宗後半の治世を、有名な愛妃楊貴妃の生涯を通じて描いた作品。ファン・ビンビン主演。
楊貴妃の描き方が何か独特で、則天武后のように権勢を求める訳でもなければ玄宗との"愛"にも実は特に積極的ではなく、ひたすら受け身の傍観者に近い時代の被害者、しかし個人としては人格・才覚優れた女性として描かれています。
楊貴妃が傍観者的な分、「恋愛」ドラマにも「宮廷」ドラマにもなり切らず、結果的に"時代"や"歴史"そのものが主役になっているという感じのドラマ。それが意図的でないことはないんでしょうけど、作り手のメインの意図はやはり"楊貴妃"を描くこと、特に彼女の人柄や無罪性を描くことにあるのかなという感じ。クオリティは高いです。
10.「北宋」
まず時代の説明から。
上の『楊貴妃』の後半に起こる"安史の乱"辺りを皮切りに始まった混乱や周辺異民族の勢力伸長の果てに唐が滅亡し、その後「五代十国」と総称される小国乱立期を経て漢人王朝「宋」が一応統一王朝を樹立する訳ですが、その支配力は弱く契丹人の「遼」、それを滅ぼした女真人の「金」、更にそれを滅ぼして最終的に中国全土を支配する「元」を打ち立てるモンゴルと、次々現れる北方異民族(王朝)との戦いに、この時代の"歴史"の多くの部分は費やされます。
その内「遼」に"燕雲十六州"という万里の長城"内"一部領域の恒久的支配を許しつつも、一応全国政権の体裁を保っていた時代を「北宋」、遼を滅ぼした「金」(後にモンゴルにも)に北半分を支配され、南半分に支配地域を後退させた時代を「南宋」と一般に呼びます。
その「北宋」時代を舞台にしているのが、この作品。
『大宋少年志』[大宋少年志](2019) 全42話
北宋期の有名な物語としてはかの"水滸伝"があるわけですけど、あれはそれなりに深い時代背景も秘めつつ直接的には北宋のローカルな"内乱"(暴動?)の話でとても歴史の本流とは言えないので、その関係ドラマはまず却下。次に有名だろう"楊家将演義"はこちらは割と正統的な遼との"戦争"の話ではあるんですが、作られているドラマの出来が今一つ&本質的には"内紛"(宋朝内の足の引っ張り合い)の話で若干スケール感に欠けるというか「全体」観が得られ難いので、こちらも却下。他どれをとってもどうも上手くないなあと頭を悩ませていたところで出会ったのが、最近見たこの作品。
宋の子弟の中から選抜されたエリート少年少女からなる特務部隊の活躍を描くコミカル武侠探偵ストーリーとでも言うべき純エンタメ作品で、内容的にはフィクションもいいとこな筈なんですけど、設定上からも"宋への愛国心"を明確に軸に据えつつも、序盤から(東北の)「遼」は勿論、同時期に西北で勢力を誇っていた「西夏」側も含めた全力で魅力的な敵キャラクターたちと盛んに"交流"が行われ、今まで見たどんな「北宋」ものよりも効率的に立体的に、北宋(時代)の政治状況が自然に頭に入って来ます。相当よく出来たシナリオだと思います。
いちドラマとしても、ここ最近、2010年代中頃からの「中国(歴史)ドラマ」の美味しいところを寄せ集めて各々磨き上げた上で組み合わせた最高のパズルという感じで、そういう意味でも紹介しておきたい、サンプルとしてリストに入れておきたい作品。変則的な内容ながら。
まああえて言えば、"裏"国防ものとでも言える作品かも知れないですね。"特務"という意味でも裏だし、コメディタッチという意味でも。(笑)
・・・ここまで10時代(約)10作品、ここまでを前半と。
最初から特にそういう計画ではなかったんですが、結果的にこの時代までが、域外・長城外からのあからさまな「征服」という形でなく全国王朝が形成されて来た時代で、次の「南宋」からは上で説明したように金やら元やら、また後には「清」という形で、はっきりした"異民族"による"征服"王朝が次々形成される時代になるわけです。・・・「民族」的に厳密なことを言い出すとややこしいのでやめますが、少なくとも「中国人」の自意識的にはそうなはず。
そういう意味では、いい切りになったなと。あえて言えば・・・「ドメスティック」王朝の時代とでも言いますか。「中華」王朝とか言うと、何かまた違う気が。
続きは後半で。
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