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中国史を学べる中国歴史ドラマ20選 (後半)
2021年07月14日 (水) | 編集 |
「春秋」~「北宋」時代を扱った(前半)より。

春秋 『中国儒学の始祖 孔子』(1990) or 『復讐の春秋 臥薪嘗胆』(2007)
戦国 『キングダム 戦国の七雄』(2019)
秦~前漢 『項羽と劉邦 King's War』(2012)
前漢 『漢武大帝』(2005)
後漢~三国 『三国志 Three Kingdoms』(2010)

南北朝 『独孤伽羅 皇后の願い』(2018)
隋~唐 『創世の龍 李世民 大唐建国記』(2009)
唐(武周期まで) 『則天武后』(1995)
唐(武周期後) 『楊貴妃』(2007)
北宋 『大宋少年志』(2019)

南宋1 『射鵰英雄伝 レジェンド・オブ・ヒーロー』(2017)
南宋2 『神雕侠侶 天翔ける愛』(2014)
元~明 『大明帝国 朱元璋』(2006)
 『大明王朝 嘉靖帝と海瑞』(2007)
明~清 『大清風雲』(2006)

 『康熙王朝』(2001)
清~中華民国 『西太后の紫禁城』(1998)
中華民国 『功勲』(2007)
中華人民共和国(改革開放以前) 『プロット・アゲインスト』S1 or S2(2005)
中華人民共和国(改革開放以後) 『絶対権力』(2003)


後編は「南宋」以降、女真人の「金」に始まり「大日本帝国」に至るまで(?)の、異民族侵入期的な。

引き続き中国史については「中国の歴史」日本語Wikiを、
時代別中国ドラマ一覧としてはこちらを参照。



11.「南宋」1 (金との戦い)



『射鵰(ちょう)英雄伝 レジェンド・オブ・ヒーロー』[射雕英雄伝](2017) 全52話

いや、難しい(笑)んですよ、は。(「北宋」編から引き続き(笑))
とにかく少なくとも中国人の自意識的には、歴史上初めて「遼」「金」「モンゴル」と立て続けに"異民族"の一部ないし全面的な内地の定着的支配を許してしまったエポックメイキングな時期なので、これら"民族"の日本人にとっての区別の難しさの問題も含めて、なるべく一つ一つの対決をきちっと(作品で)拾いたい。
一方でそういう中国人/漢民族としては"屈辱的"な時代であるので、あんまり描きたくないのか他の時代に比べて作品の層が薄いんですよね。そもそもの「宋」の"建国"自体、一本もまともに描いた作品が無いという有様。

そんな中で孤軍奮闘的に先鋭的な"歴史"意識を持ってこの時代と向き合っているのが現代武侠小説の大家金庸で、「北宋」についても"生まれは遼、育ちは宋"という意図的に歴史的なバックボーンの主人公を配した『天龍八部』という作品があって、『大宋少年志』が登場しなければそのドラマ化作品が恐らく第一候補でした。
そこでは"落選"となった(笑)金庸作品ですが、続く「南宋」期の「金」との対決期については・・・お世話になるかなと。この代表作に。
『天龍八部』も含めて基本金庸作品は全てそうですが、ありていに言えば奇想天外カンフーアクションストーリーなので、歴史の"全体像"を描いているとまでは到底言えないんですけど、他に無いんですよね、「金」の圧迫をある程度以上主題的に扱っている作品が。
・・・いや、あることはあるんですけど。ずばり『岳飛伝』(2013)という、金と戦い続けた有名な将軍を描いたドラマが。ただ序盤を見た限りやけに"アクション・ヒーロー"もの的外伝的な作りで歴史ドラマとしての正統性や包括性は期待出来そうになく、にも関わらず(?)70話もあって到底付き合う気にも他人に薦める気にもならないので、却下。
というわけで主人公の両親が侵入して来た兵に殺され、もう一人の主人公も父親を殺されるが母親が金の皇族に見初められたことによって"仇"の義理の息子として複雑な人生を送るストーリーの『射鵰英雄伝』、その何回かある映像化の中でも決定版的な2017年の作品を、採用。
("歴史の勉強"としての)内容的な無理、不十分は承知の上ですが、ある程度「中国ドラマ」のショーケースも意識している企画なので、中華フィクションの代表の一つ金庸のドラマ化作品も、どこかで入れておくのは悪いことではないだろうと。(若干言い訳(笑)。でもほんとに無い)


12.「南宋」2 (モンゴルとの戦い)



『神雕(ちょう)侠侶 天翔ける愛』[神雕侠侶](2014) 全52(54)話

・・・で、終わっておけばいいものを、なぜかもう一つ金庸ドラマ。(笑)
これも苦渋の選択。(笑)
モンゴル/元ということではこちらもずばり『フビライ・ハン』(2013)という作品はあるんですけど、内容を見ると要はモンゴル内部の権力争い(&兄弟喧嘩)の話で「元」の建国は最後に後日談的にちょろっと出て来るだけなんですよね。今回の企画はあくまで「中国史」の勉強であって、世界史でもモンゴル史でもないので、その点で不採用。・・・これが「元」"建国後"の権力闘争なら、例えモンゴル人どうしの話でも採用可能かもしれませんが。
となると・・・もうほんとにこの時代、これしか見当たらない。(中国内の)"モンゴル"を扱っているのは。
タイトルから想像つくように、この作品は上の『射鵰英雄伝』の続編で、前作では金に対して服属的な位置にいたモンゴルが、いよいよ取って代わって"主役"として南宋を圧迫して来ている時代を描いています。
ただし「元」建国までは話は進まないので、一般にはさほど重要でもメジャーでもない「南宋」時代で2作品を使うのは本来はバランス的におかしいんですけど、次の「元」が(仮に『フビライ・ハン』を入れたとしても)ほぼ空白なのでその分も併せて、ここで枠を使っちゃおうという感じです。あと付加的な意図としては、せっかく続き物なので二つ見ると楽しみが倍加することはするので、それも含めてまあ"金庸紹介"的にはいいかなと。(笑)
ちなみに『神雕』ドラマとしてはもう一つある2006年版を推すファンも多いとは思いますが、企画的に(2017射鵰から)"続けて"見ることを想定した時に、映像的な連続性としては2014年版の方がスムーズだろうという配慮もあって、こちらにさせていただきました。2006版の映像だと、過去の話に見えちゃうのではないかと(笑)。2017射鵰は動かせないでしょうしねえ。


13.「元」末~「明」



『大明帝国 朱元璋』[朱元璋](2006) 全46話

というわけで、時代は一気に「元」の末期まで飛びます。
元末に各地で起きた(モンゴル人の支配に甘んじていた)漢人反乱の一つから、「明」を建国するに至った朱元璋の話。貧民出身の荒くれ男朱元璋の成り上がり記的な序盤の印象からは意外でしたが、明建国後の話も結構長くて、"成り上がり"な前半と皇帝になった朱元璋の統治の苦労が描かれる後半とで、ほとんど別の二つのストーリーになっています。
馬鹿正直ですらある男気溢れる親分だった朱元璋が疑い深い皇帝になって行くのは嫌な感じですが(笑)、状況に強いられて仕方なくという説得力はありますし、"功臣の処遇"や"官僚の管理"という普遍的な政治・統治の問題としての、リアリティもあります。普遍的過ぎて「これは"朱元璋"なのか?」と前半の人格との繋がりを見失うところも若干僕はあったんですけど、一般的にはアクが強くてダーティなイメージがむしろ強い人だと思うので、そこらへん色々とバランスを苦慮して、なるべく"全部"を描こうとしたヒーロー像ではあるんだろうなと思います。


14.「明」



『大明王朝 嘉靖帝と海瑞』[大明王朝1566](2007) 全46話

その朱元璋によって開かれた明王朝の、普通なら"最盛期"などを紹介する流れになりそうなんですが、僕自身の印象も中国人が作っているドラマも、ほとんどは乱れていた爛熟・堕落していた汚職まみれだったみたいなみたいなものばかりで(笑)、紹介するのもそうした汚職・腐敗の構造と絶望的な戦いを繰り広げた実在の有名な官僚・地方行政官の話。
汚職の余りに高度に組織化されている様子も唖然としますし、それとの戦いの中で描かれる、中国の内政のメカニズムの分厚い描写も見事な傑作。
更にこのドラマの特徴としては、例えばそうした汚職の温床となっている"官僚"システムと皇帝権力の関係を独特の繊細さを持って描いていることで、歴史的には"汚職を許した""政治に無関心な"暗君的評価の多い十二代嘉靖帝が、実は資質的には優れた人で政治を正常化したい意思も十分にあって、しかしうっかり自分が手を出すと国のシステム全体が致命的に崩壊することが分かっているので、いかに遠回しに、自分の意思をぼやかしながら主人公たちを助けるべく苦心した、複雑で高度に知的な人物(その分やはり卑怯でもある(笑))として描かれています。
嘉靖帝の擁護自体も割と本気なんだろうなという感じはしますが、描きたかったのは恐らく「皇帝」vs「システム」の普遍的関係そのもので、だからこそ"汚職"も根絶し難い容易に制御は出来ないと、そういう話になって来る訳だろうと思います。色々なことがありつつ、しかしそれら起伏の全てを一枚の知的緊張のベールですっと覆って落ち着かせているような、独特の印象のある作品です。
・・・なおほとんど同じ時期のかつ同じく"腐敗"を重要なテーマとして描いている『少林問道』(2016)というより最近の作品もありますが、時代状況の描写の包括性という点ではやはりこちらの作品の方に大きく分があると思います。


15.「明」末~「清」



『大清風雲』[大清風雲](2006) 全42話

建国はしたもののまだ中国本土を征服し切ってはいない時期の、前出"金"と同じ女真人(のち"満洲人"と改称)の王朝「清」(後金)内部の権力闘争を描いた物語。
モンゴルの(「南宋」2の箇所参照)に倣えば「"中国"史ではない」と対象外にしてもおかしくないところではあるんですが、明から清に帰順した漢人官僚とそれを多くの場合支持する、序盤に死んでしまう二代皇帝ホンタイジの未亡人(皇太后)と、ホンタイジの弟ドルゴン率いる清(女真人)の伝統勢力との物理的思想的対決で全編が貫かれていて、場所はまだしばしば草原でも否応なく中国/漢文化をめぐる物語になっているのが違うところ。
また後の清朝の「中国」への定着の仕方がモンゴルを筆頭とする他の異民族/征服王朝とは比べものならない徹底的なものなので、この時期の話でもまあ十分「中国史」ではあるかなと。
とにかく迫力のある政治ドラマで、見応えがありました。(ただしラストのどんでんはやり過ぎかと思いましたが)
またこの"後"の時期を舞台にした中国ドラマが本当に大量に作られているので(笑)、その"準備"という意味でも、格好の作品かなと。


16.「清」



『康熙王朝』[康熙帝国](2001) 全50話

上のホンタイジ未亡人が必死で守ろうとしていた幼い息子の三代順治帝の、更に息子で、次の雍正帝・乾隆帝と続く清の黄金期を開いた四代康熙帝の一代記。
少年皇帝が我がもの顔でまとわりつく年長の親族や功臣たちを押さえて皇帝の絶対権力を確立して行く過程、周辺民族や台湾含む明の残党勢力を駆逐もしくは懐柔しながら清の軍事的支配を拡充・安定させていく過程、疲弊した国内の民生問題を解決して行く過程、そしてそれら困難な事業を通してかつての少年皇帝が善悪容易に定まらぬ複雑な王者の人格を形成して行く過程と、およそ"歴史ドラマ"を構成するあらゆる要素をきっちりと抜けなく描き切っている、「教科書」的なドラマでもあります。
康熙の最良の理解者であった愛妃を政治的理由で切り捨てて、苛酷な境遇に落としていく"悲恋"のストーリーも切なかったですね。まあ腹は立ちましたけど(笑)。何とかせえよ、皇帝だろう?男だろう?(憤慨笑)
なお前回「前漢」期『漢武大帝』同様、立ち上がり結構スロー(最初は順治帝の"出家"の話を延々やってる)&康熙帝役が2回も変わるという、この時期の中国ドラマ独特の作り方に戸惑うかもしれませんが、ちゃんと盛り上がるので気にせず見て下さい。(笑)


17.「清」末~「中華民国」

その康熙に始まる、その最後乾隆期には"世界最強"(最盛)すら自負するに至る盛期も過ぎ、繁栄に胡坐をかいた濫費や増長による鎖国/世界の潮流への立ち遅れを西洋植民地主義勢力に付け込まれたのもあって衰退・崩壊した王朝が、"共和制"(非王制)を旗印とする「中華民国」に支配権を譲っていく時期の話。



『西太后の紫禁城』[日落紫禁城](1998) 全30話

朝廷を牛耳る守旧派の西太后(太后とは現皇帝の実母や前皇帝の正妃などとにかく"母親"的地位にある最高権威女性)と義理の息子にあたる光緒帝とその知恵袋の愛妃ら改革派の対立を軸に、行きがかり上両方に忠誠を尽くし両方から可愛がられたある女官の視点も噛ませながら、どん詰まりの清の宮廷の混乱と人間模様を描いた作品。
実際にはこの光緒帝が早世した次に即位(一瞬ですが)する宣統帝溥儀の代が清の最後で、この作品自体はそこまでは行かないんですが、"日落紫禁城"と原題にあるように"滅び"の気配は既に濃厚で、確定済みの緩慢な死を、だからこその精一杯の王朝的"中国"的な様式美である種淡々と描いている退廃的な作品。西洋人の目を通したベルトリッチ『ラストエンペラー』とはまた違う、中国人にとっての(当時の)"中国"が実体化されている感じで、西太后も守旧派なりに落日の王朝を一人支える責任感と賢明さの持ち主として描かれています。(『ラストエンペラー』ではただの気色の悪い因業婆でしたが(笑))
とにかくドラマとして見事な作品で、背景としてのくだんの"様式美"の一方で、西太后・光緒帝妃・女官三者三様の人としての存在感、それぞれに瑞々しい名演が刺さりまくる、魅力的な作品です。この作品が作られた1998年から20年以上たって、最早当の中国人にすら二度とこんな"中国"は描けないだろうなという"落日"への哀惜もこめて(笑)、リスト入り/紹介しておきます。


18.「中華民国」



『功勲』[功勲](2007) 全33話

日中戦争(第二次世界大戦)期に在留日本軍の中枢深くに潜入した中国人スパイの話。
が終わったと思ったらいきなり日中戦争というのも殺伐とした感じですが(笑)、「中華民国」建国の1912年から満州事変の勃発(1931年)までは僅か19年、所謂"日中戦争"開始とされる1937年でも25年しかないので、中国四千年(?)の中では僅かな年月。
「中華民国」の統治も不安定で、初代総統(袁世凱)が勝手に皇帝を名乗ったりそれとは別に溥儀が一瞬だけ皇帝にまたかつがれたり終始ごちゃごちゃしていて、ともかくも清朝/帝政を終わらせたという以上の歴史的意義を強調しにくく。
更に言えば現在は台湾に存在する"中華民国"/(元)国民党政府、それを倒して/追い出して作られたのが現"中華人民共和国"である以上、"中華民国"を積極的に描く動機が乏しくなるのは推して知るべしで。
それでも何か一つ挟みたい気持ちはあったんですが、薄い作品層の中でこれと言った作品を見出せずに、こういう選択に。・・・一応『ラストエンペラー』の中国TVドラマ版というのもあるんですが、視点が溥儀個人に寄り過ぎているのと時代的に戦後の結構先(人民共和国二桁年代)まで行ってしまうので、"それぞれの時代をそれぞれのドラマで"見るという今回の僕の意図からするとハマり難くで不採用。単に状況知りたいだけなら、映画版で2時間で見た方が簡単ですし。

というわけで、"日中戦争"期の話。
日中戦争期ドラマそのものは、中国国営CCTV製作のものを含めれば大量にあるんですが、それらは"CCTV大富"チャンネルの番組として日本語字幕付きでスカパー等で見ること自体は出来ますが、DVD化等はされていないのでその時放送されているものしか基本的には見られない。ドラマとしては面白いものが沢山あるので紹介出来ないのは残念ですが、とにかく企画に従って日本で自由に視聴可能なものの中から選ぶとすれば、これかなと。
・・・これかな、というかほぼこれしか無いんですけどね。僕が紹介したくなるようなこの時期の"歴史ドラマ"作品は。実はこれの主演を務めている"柳雲龍"という役者さんは次に紹介している同じくスパイものの『プロット・アゲインスト』の監督・主演も務めていて、ほとんどこの人一人で、この人個人の近代諜報戦への興味と情熱で、この時期の"市販歴史ドラマ"の世界は支えられている感。(笑)

時代と中国ドラマ状況の説明がえらく長くなりましたが、作品。
リンク先の作品紹介では"ラブストーリー"となってますが、そういう味付けもありつつ実際はシリアスなスパイものです。"007"等の影響もあってむしろ「王道エンタメ」ジャンルの一つとして確立している感のある欧米のスパイものとは違って、中国もの(CCTVも沢山作っている)は諜報活動本来の身も蓋もない残酷さや民族的な特殊性すら疑わせる偏執的に緻密な駆け引き・戦略の描写を第一とした、はっきり言えば陰気な(笑)作風が基本で、この作品も大きくはその類。"スパイ"ものだと覚悟して見ても、見慣れないと最初ぎょっとするかもしれない、西洋的なリアリズムとはまた違う独特の暗さです。
その中では一般販売を念頭に置いたメジャー感のある作りにちゃんとなっていて見易いですし、加えて言えば当然基本"悪役"ではある日本軍軍人たちの描写も、そういう場合にありがちな戯画的な表現に流れないようきちんと制御されていて、そういう意味でも見易い作品。"潜入"先の当時の在中国日本軍の、日本製創作物でも目にした記憶が無いタイプの日常活動の描写なども、物珍しくて良かったです。
勿論スパイもの自体としても一級品で、今回紹介出来ない多くのCCTV製諜報ドラマの傑作たちの無念も、この作品を見てもらえれば一応は晴らせるかなという感じです(笑)。特に前半の、主人公(側)の策がバシバシはまる順境期の快楽はちょっとしたもの。そこにリアリズムの重みも伴っているのが、また独特な感じで。


19.「中華人民共和国」(改革開放以前)



『プロット・アゲインスト』S1盲目の少年 or S2天才数学者[暗算](2005) 各10話、12話。(+S3としてもう12話)

二つ挙げていますがこれは迷っているのではなくてどちらでもいい、お好みで、何なら両方見るのもOKという、緩いリストアップです。
作品のあらましとしては、まずこれは共産党の諜報活動において長期にわたって指導的役割を果たした一人の名スパイを一貫した主人公に据えた全34話の『プロット・アゲインスト』というドラマであり、かつそれぞれに重要なサブ主人公を置いた3つのシーズン「盲目の少年」「天才数学者」「赤い国民党員」の内、中華人民共和国建国後の台湾国民党政権に対する防諜活動を描いた時間的に連続する最初の二つのシーズンそれぞれを、独立した作品として並列したものです。連続はしていますが各々完結した内容の全くの別物で、どちらか一つだけ見ても両方見ても全然構わないという、そういうことです。
ストーリーとしてはまずS1は、盲目無学で幼児的な人格だけれど超人的な聴力を持つ一人の少年が、それを見込まれて共産党諜報部の暗号通信員としてスカウトされ、国民党側暗号通信の常人では不可能な僅かな音の聴き取りや聴き分けからパターンを解明し、中国本土に敷かれた国民党側暗号通信網の壊滅に成功する話。続いてS2は、それから数年後、ソ連出身の奇才女性数学者が考案した解読不可能とも思われる暗号システムをアメリカ経由で台湾国民党政権が手に入れたのに対して、こちらはアメリカ帰りのこれも女性の中国人天才数学者を主人公がスカウトし、彼女との恋愛的関係への対処に大苦労(笑)をしながら何とか協力して最終的には暗号解読に成功する話。
それぞれに「暗号」(通信)の世界の、"詳細"という言葉では表現しきれないような圧倒的な"実物"の迫力に満ちた描写に呆然とさせられますが、ドラマとしても各々相当にクセが強いです。S1では要は耳がいいだけで知的でも人格高潔でもない"英雄"のしょうもない振る舞いにちょいちょい引かされますし(でもこんなもんだよなあ教育が無いとと変な納得感も)、一方でS2の女性数学者は当然頭脳明晰でありまたその頭脳に相応しい鋭敏な感受性とアメリカ帰りらしい率直な感情表現をためらわない性格の魅力的な人物ではあるんですが、いささか異常にも思える過度な"恋愛"体質で主人公を筆頭とする周囲を盛大に振り回し、頼むから暗号だけ解いててくれよと中国共産党関係者と一致した見解を観客である僕も持つに至ることしばしば(笑)。後者はまあ熱のこもった「恋愛ドラマ」だと評価すること自体は可能なんですが、ドラマの全体像としては少し奇妙というかいびつな印象を受けるバランス(まあ彼女の多情多感も能力の一部ではあるんですけどね)。かなりの部分事実/実在の人物に基づいた話らしく、そうした"諜報"に身を捧げた人間たちへの監督(上で言った柳雲龍)の特殊な愛情の深さが感じられると、そういう言い方をしてもいいかも知れません。
というわけでどちらもお勧めでどちらもお勧めではないので(笑)、お好きにという感じです。(笑)

・・・なお作品の紹介としては以上ですが、本来このドラマの前提には、『功勲』で描かれた日中戦争の終結後の激烈な国共内戦(国民党"政府軍"と共産党"反政府軍"の争い)とその結果の共産党軍の勝利・人民共和国の建国・国民党政権の台湾への脱出というプロセスがあるわけですけど、残念ながらその時期をちゃんと描いている市販ドラマは今のところ皆無で、それこそこの『プロット・アゲインスト』のS3が部分的に描いているくらい。
また"「中華人民共和国」(改革開放以前)"という時代区分そのものからすると、本来はむしろ毛沢東の"大躍進政策"(の失敗)や"文化大革命"、あるいは朝鮮戦争について描いたドラマでもあれば、より「時代」としては分かり易いわけですけどね。CCTVの方ではぼちぼちそういうドラマも最近では作られ始めてはいるんですが、それが市販ドラマの世界に降りて来るのはいつのことになるやらそもそも降りて来るのか、何とも言えない感じ。
そういうわけでいささかマイナーな内容の作品のチョイスにはなりましたが、それでも"改革開放"以前の中国の生活感や貧しさ、思想的統制の厳しさやその一方での純朴さなど、時代の空気はそれなりに感じ取れる作品だと思います。


20.「中華人民共和国」(改革開放以後)



『絶対権力』[絶対権力](2003) 全27話

僕が通常「歴史ドラマ」として分類しているのは中国で言えば毛沢東時代まで(を始点とするもの)で、鄧小平による"改革開放"(1978)以降は経済体制も風俗も急激に西洋化グローバル化する中で、それを舞台に作られるドラマはここ中国でも大雑把に言えばどの国で作られてもおかしくないようなタイプのいわゆる"TVドラマ"として、ある種脱歴史化して行きます。"現代劇"化と言い換えてもいいですが。
そうした作品群の中でなぜこの現代中国の地方行政(の汚職構造とその改革)を描いた作品を取り上げるかと言うと、一言で言えば「時代」を感じるからです。「歴史」を。例外的に。特殊に。

知る限り1990年代末から始まった中国の"現代劇"ドラマの歴史の中で(参考)、単に今見ると"古い"もの"古臭い"だけのものならば他にいくらでもあるわけですが、ただこのドラマに刻まれている"歴史"の刻印はそれとは少し異質なものに感じて、恐らく時間が経てば経つほど、「現代」という「時代」を舞台にした「時代劇」として見えて来るのではないかなという、そういう感じ。
理由は多分、地方"行政"という扱い内容が取り分け中国共産党指導体制という現代の"王朝"との近しい関係、強い緊張関係にあるからで、実際製作当時当局と厳しめの交渉があったという事が、中国語版Wikiには書かれていますが。
具体的にどこがどのように検閲の対象になったかとかは勿論分からないわけですけど、とにかく結果としてこの作品が他の"現代"ドラマには無い独特の厚み、視点の立体性複層性を感じさせる作品になっているのは確か。
・・・つまり所謂"歴史ドラマ"において、作っている現代人の持つ"常識"と描いているその時代の"常識"との批判的擦り合わせが必ず行われるように、この作品においては"現代"(中国)人としてのある種普遍的一般的な価値観と"共産党/マルクス主義"の奉じる現状相対的には特異で非"現代"的な価値観とが、同様に批判的に擦り合わされていて、それが「現代」における「時代劇」、"中国共産党王朝"時代を描いた「歴史ドラマ」的な感触を、このドラマに与えているのだろうと思います。

まあ上の書き方だとまるで"検閲されたから"そうなったという風に読めてしまうかもしれませんが(笑)、実際には元々この作品は、現代の経済的現実に直面しながらも基本的には党の理想・指導を受け入れながら、良い政治良い社会を実現しようと苦闘するある地方の政治家と役人たちを描いたもので、腐敗を批判し現実を嘆いてはいても体制を否定しているわけではないそういう作品なんだろうと思います。・・・検閲によって、多少"建前"性が強化されたとしても。
"否定しない"というのは重要で、つまり古代中世のある時代の政治体制を(民主主義ではないと)ハナから否定してしまったり、そこで大事にされている封建道徳の類を"時代錯誤"(笑)だと切り捨ててしまったら、そもそも感情を込めた歴史ドラマなんて作れないわけですからね。その"チャンス"を「中国共産党」王朝にも与えているのが言わばこのドラマで、そういう意味での「歴史ドラマ」感があるという。

ただの"プロパガンダ"では馬鹿馬鹿しいですけど、かといって批判一本でよくある"社会派ドラマ"にしかならない。
その微妙なラインを渡り切っている珍しいドラマ、中国でも他に例が思い浮かばない。
"CCTV"の政治ドラマだと、やはりプロパガンダ色が強過ぎるのでね。
まあ普通にかなりよく出来た見応えのある大人の人間ドラマ(ほぼ"社会的地位のあるおじさんとおばさん"しか出て来ない(笑))で、でも見た目地味過ぎてほっといたら誰も見そうにないのでこの際ねじ込んでおけという私心も多少あってのチョイスですが(笑)、でも例えばもし将来"共産党王朝"が崩壊する時でも来たら、それこそ貴重な「歴史ドラマ」としてカウントされるのではないかなという。他の"現代劇"ドラマには無理でも。


以上のべ20作。
興味を感じたら見てみて下さい。
一部無理やり/不本意な時代は無くは無い(笑)ので、今後より趣旨に合った作品に出会えたら、随時入れ替えはして行きたいですが。


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テーマ:中国ドラマ
ジャンル:テレビ・ラジオ
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