2019
ネーションズリーグ2019後 [9位]
全日本で石井優希が攻守の要に成長。中田監督も「昨季とは全然違う」(Web Sportiva/中西美雁 2019.6.23)
もともと石井はパワフルなバックアタックが打てる選手ではあったが、サーブレシーブにまだ不安が残っていた昨季は、守備からバックアタックに移る難しさを感じていたという。
しかし今季は、サーブ、スパイクレシーブのあとでも、強烈なバックアタックを打つ場面が多くなった。
「以前に比べて苦手意識はなくなっています。今年はセッターも積極的にバックアタックを使ってくれていますし、得点も取れている。攻撃枚数を増やすために有効ですから、後衛では積極的にバックアタックにいくようにしています」
「メダルを取る」ブレない目標に向けて中田久美監督が語る、東京五輪までの1年(スポナビ/田中夕子 2019.7.25)
・・・当初から言っていた「絶対的な技術」や「精度」の、言い換えと言っていいかなと。末尾部分を見ても分かると思いますが。――世界との差は埋められないものではない、とおっしゃっていました。ここからの1年間でどうその差を埋めていこうと考えていますか?
常に「粘る」と言っていますが、「粘る=ラリーを続ける」ということではないんです。どれだけ拾っても、結局相手のエースに決められてしまっては「これだけ拾っても簡単に決められた」とダメージも残るし、疲労も残ります。私が考える「粘って」というのは、例えばブレイクの場面ならば、まず相手にいいサーブを打って、そこからの相手の攻撃に対して、簡単に落とすのではなく球際を粘る。そして、そこから1本で点数を取りに行くということ。
ラリーを続けさせる粘りではなく、あと一歩、粘って必死で上げることで攻撃につながりやすいパスになるのなら、そこを粘る。ラリーで流れをつくるのではなく、レセプションアタックを確実に決める。そういう面で言えば、Aパスが入った状況でコンビミスが出るのはもったいないし、それはセッターの技術不足であり、アタッカーのスキル不足でもある。ここは1年で確実に詰められるものだと思っています。
ワールドカップ2019後 [5位]
女子バレーで課題が露わ。佐藤美弥を苦しめた「間」と魔のS4ローテ(Web Sportiva/柄谷雅紀 2019.10.1)
多くの試合で見られたのは、ラリー中、セッターの佐藤美弥(日立リヴァーレ)に供給される1本目のパスに高さがなく、コート内がばたつくことだ。佐藤がコート上を駆け回り、何とかボールに追いついてトスを上げてはいたものの、ミドルブロッカーの攻撃参加は少なく、ライト側に振る余裕もない。「レフト偏重」になった攻撃は、ブロックとレシーブの堅固な守備を持つ相手には通用しなかった。
・・・古くからのファンには常識だからかもしれませんが、この言葉自体はここらへんの時期に、僕は初めて耳にしました。パスを高く上げすぎずにセッターにリズムよく返球し、そこから攻撃を繰り出す。中田久美監督が久光製薬を率いていたときから貫いてきたコンセプトだ。カメラのひとつのフレームの範囲内にボールが収まるという意味から、「ワンフレームバレー」とも呼ばれる。
・・・ラリー中限定ではありますが(つまりレセプション時ではないですが)パスを「高」くしろと中田監督自身が言っていたという言質。ラリー中の1本目に"間"を作り、できるだけ多くのアタッカーに攻撃参加させる。徐々に形になり始めたのが大阪での最後の3連戦だった。最初のセルビア戦後、中田監督はこう言った。
「ラリーが続いたら、少し"間"を持たせるためにパスを高めに返しなさいという話をした。そのことによって、ミドルブロッカーも十分に"間"を取れるようになったのかなと思います」
・・・"取り入れつつ"とは?という感じですが。具体的な位置づけは?という。石井も大変。(笑)チーム最多となる158点のスパイク得点を挙げた石井は、その成果をこう言った。
「偏りがなく、バックアタックを含めて、みんなが同じ打数になれば相手も惑わされる。私自身も仕掛けていける。監督のワンフレームバレーも取り入れつつ、"間"を作るところは作っていくことができたのが大阪ラウンドだった」
・・・こちらは新鍋を使う限り常に存在する、新鍋後衛時問題。それでも、わずかに改善の可能性は見えた。オランダとの最終戦で、トスこそ上がらなかったが、新鍋がバックライトからバックアタックの助走に入り、トスを呼んだ場面があった。新鍋は言う。
「ライト側にブロッカーがいない状況があったので、呼んでいた。フロントのレフトや、後衛のアウトサイドヒッターがバタバタしている状況があったので準備はしていました」
これまではブロックフォローを優先していたが、今大会ではセッターが前衛時に連続失点をしてしまうことが多いため、意識が変化したという。
バレーW杯で苦戦した中田ジャパン。浮き彫りになった「間」の重要性。(Number Web/米虫紀子 2019.10.3)
・・・"新人"への猶予措置期間中だったのもあって、割と強めの言い方。セッターの佐藤美弥(日立リヴァーレ)は、大会開幕の前日、石川へのトスについてこう語っていた。
「打つテクニックがあって、幅が広いので、そこを殺さないように、彼女の打点を生かすトスを上げたい。スピードで強みを殺してしまっては、意味がないと思うので」
これが佐藤の本心だろう。石川に対しては、あくまで持ち味を引き出す高いトスを上げて生かした。
・・・上の柄谷記事と総合すると、ネーションズリーグで緩めたものを中間期間に締め直して、ワールドカップでまた緩めたという流れでしょうか。石井は今年5月から6月にかけて行われたネーションズリーグでは、高さを生かすトスで日本の最多得点を挙げたが、大会後トスを速くした。合宿中はうまくはまっているように感じたが、海外のチームを相手にすると勝手が違った。
「やはり外国人選手が相手だと、ブロックが前に出てくるので、囲まれてしまう」
眞鍋政義前監督の頃から、もっと言えば男子の代表も含めて、日本が“速い攻撃”を目指しては、大会中に行き詰まり、トスを浮かせてスパイカーの打ちやすいトスに調整する、という光景を何度も目にしてきた。
・・・上の"取り入れ"問題の答え?ほぼ顔を立ててるだけ状態という感じも。久光製薬の中心選手でもある石井は、ワンフレームバレーについて、大会中こう語っていた。
「日本では通用していたけど、(1本目が速い分)攻撃枚数が減ったりするので、(世界に対しては)まったく同じというのは通用しないと思います。でも監督は、ワンフレームバレーはぶれずにやっていきたいということなので、久美さんのバレーなので、そこはしっかりやっていかないと。その中でも自分たちでいいように変えられるところは変えて、うまくはめていかなきゃいけないかなと思います」
・・・再びの証言。第9戦のセルビア戦では、1、2セットを奪われた後、監督からの指示により、1本目の返球を高くして間(ま)を作ったことで、日本のバレーがガラリと変わった。
ワンフレームの枠を飛び出したことで、個々が持ち味を発揮し始めた。中田監督はこう分析する。
「ワンフレームのバレーができるから、対応ができると思うんです。セッターにきっちりと(ワンフレームで)コントロールして持っていくという意識があるから、『この場面は高くしよう』となったら、意識的に高くできる。
・・・物は言いよう?(ワンフレームバレーは)意識づけの1つなので、別にその型にピッタリ当てはめることがベストだとは思わない。やっぱり状況判断。自チームのオフェンスの態勢などによって、速く攻めるべきところは、コントロールしてセッターにきっちり速く持っていけばいいし、場面に応じていろんなコントロールができるのはすごくいいと思います」
W杯で見えた女子バレーの課題とは?海外勢の練習に大山加奈が注目。(Number Web/大山加奈 2019.10.9)
速さを追求して、うまくいかなくて、ゆっくりと、間を使ったバレーに戻す。同じことが何度も繰り返されているのが、本当にもったいない、と感じさせられた大会でした。
ブラジルのサーブ、組織力を前に中国はトスが低く、速くなり、セッターが1本目をレシーブした後の2本目、セッター以外の選手が上げるトスの精度が落ちてしまいました。その結果、スパイカーが自分の能力を活かせない状況になってしまったため、あの中国でさえ、苦しい展開を強いられた。
・・・他国どうしの例を使っての、非中田的バレーの有効性の主張。加えて、ブラジルはミドルブロッカーのマーラ・レオン選手を起用しました。マーラ選手はクイックに入る時、大きく、ゆっくりしたリズムなので、サイドやバックアタックの選手と攻撃のスピードが揃い、中国のブロックに対してブラジルの攻撃が数的優位な状況をつくることができた。その結果、あの鉄壁で穴がない中国のブロックですらブラジルの複数での一斉攻撃に太刀打ちできず、今大会初めて2セットを失いました。
2020
新鍋理沙が引退で大ピンチ。中田ジャパンはでっかい穴をどう埋めるか(Web Sportiva/中西美雁 2020.6.24)
新鍋は、中田ジャパンが掲げるテーマ「ワンフレームバレー(サーブレシーブを高く上げすぎずにセッターに返し、トスも速くして相手ブロックが完成する前に攻撃を仕掛けること)」に欠かせない選手だった。2017年のアジア選手権では優勝の原動力になり、MVPを獲得。攻撃力には陰りが見え始めていたものの、東京五輪でも主力として活躍すると思われていただけに、突然の引退発表に驚いたファンも多いだろう。
五輪開催まで約1年。新鍋が抜けた大きすぎる穴を、中田監督はどう埋めていくのか。
(中略)
守備力を重視してオールラウンダーの鍋谷友理枝を起用することも考えられるが、一方でライトに攻撃専門の選手を入れ、黒後と石井優希(久光製薬スプリングス)、もしくは古賀紗理那(NECレッドロケッツ)でレフト対角を組む"超攻撃的"なバレーの質を高めていく必要もあるだろう。その場合はレフトの2選手がサーブレシーブを担うことになるため、新鍋がいた時のような「速いバレー」をある程度は諦めざるを得ない気もするが......。
2021
・・・"今年"という話ですが、何事も無かったように4年前に戻ってる感。今年のチームのテーマは「日本はレセプションアタック、トランジションで同じスピードの攻撃を仕掛けるのが武器。そこにこだわって強化していきたい」と語った。
女子日本代表始動会見 今季のテーマは「わが道を行く」(月バレ.com 2021.4.19)
・・・やはり"初年度"感。中田監督は今季のテーマを「わが道を行く」と発表。その意味は、【我(自己)が道を行く】、【和(日本)が道で開く】、【輪(選手、スタッフ)が道で勝つ】の3つが込められている。
女子バレー代表の正セッターは誰が良いのか。竹下佳江が名前を挙げた(Web Sportiva/中西美雁 2021.4.30)
「新鍋さんはサーブレシーブのスペシャリストでしたし、同じタイプで代わりになる選手がすぐに出てくることはなかなかありません。今シーズンのアタッカー陣を見ると、多少サーブレシーブが崩れても、ハイセット(2段トス)を打ち切れる選手を揃えている印象です。ディフェンス面は、最低限Bパス(セッターが少し動かされるサーブレシーブ)で抑えられる選手でまとめていくのかな、と思います」
田代選手は、非常にパス力が高く、サーブもいい選手です。それでもチームでレギュラーに定着できないことには、監督から見て何かしらの理由があるんでしょうね。個人的には、組み立てに偏りが出ることがあるのが気になります。また、(2018-2019シーズンに)海外リーグ(ルーマニア)でプレーしてVリーグに復帰した際も、少しコンディションを落とした印象がありました。
・・・ここで言う"パス"(力)はこれまで出て来た"セッターに繋ぐ一本目のレシーブ"ではなくて、(セッターの)"トス"(を高く強く飛ばす力)という意味のようですね。僕も実は馴染が無い言い方なんですが。「合宿などを見て監督が判断する、ということは前提ですが、田代選手を選択するのかな、と思っています。彼女はリオ五輪も経験していますし、先ほど話したようにハイセットを打ち抜くアタッカー陣を揃えているという点でも、パス力がある田代選手にセッターを任せる可能性はあるんじゃないかと」
東京チャレンジ2021(中国戦)後 [結果]
中田久美監督「長岡の復帰で戦力的に有効なサウスポーを使えることが一番の収穫」 東京チャレンジ2021会見コメント(バレーボールマガジン 2021.5.3)
――3セット目については、負けはしましたが、ある程度理想の形が見えたようにも思いました。監督はどのように感じていますか?
中田:理想というか、ライトの決定力が上がること、あとはコートの幅をいっぱいに使うという意味では十分に使えていたと思います。
・・・攻撃の組み立てではなくてあくまで技術/精度という答え。――被ブロックが多かったことに対して、今後どのように修正していきたいですか?
中田:今後の課題としてはアウトサイドヒッターのサーブレシーブの精度をきっちり上げるということと、Bパス、Cパスで2段になった時のセッターやリベロのトスの精度を上げていきたい。ストレートをしっかり閉められた時にもう少し選択肢を持てる余裕といいますか、そういうこともスパイカー陣には求めていきたいと思いますし、トスを上げる方もしっかりとブロックアウトをとれるようにしたり、スパイカーが選択肢を持てる「間」を作れるようにしていきたい。そういう点数に直接出てこないところを詰めていきたいと思います。
中田:籾井は今回初選出で、この2か月間、ずっと彼女のトス回しを見てきて、サイドの数字が非常に高く、そのためのミドルを使うというバランスが私の中ではいいなと思っています。
ネーションズリーグ2021
日本女子バレー東京五輪出場への最終サバイバル。セッター問題は解決?チームの中心は?(Web Sportiva 2021.6.18)
籾井は、入団初年度からJTマーヴェラスの吉原知子監督に正セッターを任され、2年連続優勝に貢献。その功績から今年、日本代表に初選出された。(中略)国際経験のない若いセッターに突然代表の司令塔を任せることへの不安の声もあった。
また、この2年間、JTのオポジットが圧倒的な攻撃力を誇るアメリカ代表のドルーズ・アンドレアであったことから、ドルーズに偏ったトス回しをする印象があり、代表ではミドルがうまく使えるかも危惧された。
・・・僕はNLを一試合も見れてないので、"良かった"籾井は個人的には未見。しかしVNLが開幕すると、主将の荒木絵里香はもちろん、島村春世、山田二千華らミドルブロッカー陣の攻撃を効果的に使い、Vリーグでの「ミドルへのトスが少ないセッター」というイメージは見事に払拭された。
黒後愛は過去の代表ではアウトサイドヒッターのポジションに入っていたが、現在はオポジット。中田監督は「このチームのエースは黒後」と公言しており、守備の負担を減らしていることからも、攻撃面での活躍を期待されているのがわかる。
しかし、パワフルなスパイクが黒後の持ち味のはずだが、今大会はフェイントが多用されているのが少し気になる。セッターの籾井とのコンビを合わせるために「コミュニケーションを多く取るように心がけている」とコメントしており、籾井も「ライトからの攻撃を増やしたい」と語っていたので、その成果が発揮されれば、黒後が気持ちよく強打で決めるシーンを多く見られるようになるかもしれない。
・・・最終成績:4位
東京五輪出場内定選手発表 [メンバー]
中田久美監督「籾井はチームを勝たせることができるセッター。黒後のスイッチが入った時の打力や読み、スピードに期待したい」女子代表五輪内定選手発表会見(全文)(バレーボールマガジン 2021.7.1)
・・・2枚替え時に前衛に入る時にブロックの高さのあるミドルのポジションの選手を、(長岡断念後の他のアウトサイドの選手よりも)2枚替え要員候補として余計に入れた、守備的選択ということのよう。――メンバー選考について。多くのチームでミドル3人、アウトサイド、オポジット合わせて6人というメンバー構成が多い中で、敢えてミドルを4人選んだ理由を教えてください。また、長岡望悠選手はVNLに帯同していましたが、一度もベンチ入りの機会がありませんでした。長岡選手の状況についても教えてください。
中田:通常、ミドルが3人という国が多い中で敢えて4人を選出した理由としては、2枚替えを当初長岡でということを考えていたのですが、やはりコンディション的に上がらず、ちょっと厳しい状況が続いていたので、その辺のことも含めて、2枚替えのことも考えて、ミドルを4人にしました。2枚替えをするかしないかということよりも、そういう場面が出てくることも想定し、ミドルのブロックの高さというのを優先にしたことが一番です。ただ、今回VNLで黒後に最後まで戦ってもらったという部分では、黒後が最後までエースとして活躍してくれることが一番だというふうには思っています。
・・・普通にやっても勝算は立ってないからバクチ?籾井のいいところ、「この子だったらできるんじゃないかな」というところは、(チームを)勝たせられるセッターなのではないかと。まだまだ経験不足だったり、荒削りだったり、若干波があったりしますが、そこは丁寧に日本が育ててあげないといけないと思います。こういうオリンピック直前の緊張感のある中で、何か思い切ったことをやらなければ発展はないんじゃないかと。
中田:いろんな課題は尽きませんが、やはり日本のバレーをするということを考えると、少しでもサーブで相手を崩して、単調化させるということと、相手のライト側、オポジットに得点源の選手がいる時の、日本チームのライト側のレシーブですね。なので、日本で言うと黒後、籾井のあそこのディグ力を上げなければいけないというふうには思いました。
・・・改めて"レセプションアタック"を中心とする"ワンフレームバレー"の確認。あとは高いブロックに対して、なんとかブロックをスプレッドにするためにはもう少しサーブレシーブの精度を高め、そこから速い展開で攻撃を仕掛けていくっていうことは最低条件となります
「エースは黒後」中田久美監督も期待する黒後愛の“爆発” 恩師が明かす、まだ発揮しきれていない“稀有な才能”とは?(Number Web/田中夕子 2021.7.5)
高校時代の恩師・小川良樹監督は黒後が持つ素質と、それが活かされていない現状をこう分析する。(中略)
「チーム全体で速い攻撃をベースにするせいか、ネーションズリーグを見ていてもすごく中途半端。もう少し(ネットから)離して、相手のブロックよりも高い位置に来れば、愛には飛ばせる力があるのに、ふわっとしたトスではなく、ピュッと出てくる速いトスを打たないといけないから幅も限られる。籾井(あき)さんはパス力があるので、高いトスも上げられるセッターですから、速さ一辺倒でなくてもいいんじゃないか。愛のパワーが活かされないのは、少しもったいない気がします」
黒後が入るセッターの対角のポジションはオポジットとも称され、男子では西田有志や清水邦広といった攻撃専門の選手が入る。女子でもセルビアやイタリア、ブラジルら強豪国は、同様に攻撃力に長けた大型選手が入り、攻撃の柱になるケースが多い。では、日本はどうか。(中略)
日本代表のみならず、Vリーグでも外国人選手をオポジットに配置するチーム以外は比較的小柄で守備力にも長ける技巧派の選手の起用が目立つ。まさにこれこそが日本女子が突破するべき課題であり、小川監督が高校時代から黒後をセッターの対角でプレーさせてきた理由でもあった。
・・・とにかく"外国人的な大型オポジット"として英才教育を受けてきた選手だと、黒後は。「相手に目を向ければ世界の大エースたちとマッチアップしなければならないポジションです。新鍋さんのようにつなぎが上手で守備もできる、速いトスが打てる選手が入るのは大きな武器だけれど、ブロックは低くなる。
崩れた時に大きく上がって来たトスを、前衛もバックアタックも対角線上に強く打てる、しかもブロックが来ても飛ばせる。そういう選手が絶対に必要で、それができるのが愛だと思ったので、将来を見据えて(オポジットに)入れてきました。どうしても相手が大きいと、速さでかわさなきゃと思われがちですが、愛も真佑も相手が大きかろうとしっかり打って飛ばせる選手ですから、無理に速く、小さくしなくても、十分世界と渡り合えるはずです」(小川監督)
・・・残念ながら本番ではその成果が出なかったようですね。中田監督の代表発表から2日後の7月2日、前髪をチョコンと結んだ姿でオンライン取材に応じた黒後の表情は明るかった。聞けば、ネーションズリーグ終盤のドミニカ共和国との一戦でスパイクの感覚を取り戻したのだと言う。(中略)
その背景にはセッターの籾井と重ねたコミュニケーションがある。「トスは高く、ネットから離す」「常に全力で助走に入る」と互いが“約束”として繰り返したことで、バックライトから対角線上の奥に叩きつけ、高さで勝るブロックも当てて弾き飛ばすスパイクが見られるようになった。
「シンクロした4枚攻撃ができている時の日本は…」バレー女子のカギ握る20歳セッター籾井あき 中田久美、吉原知子が重宝する理由は?(Number Web/米虫紀子 2021.7.25)
ネーションズリーグの特に前半戦は、日本代表が目指してきた速いテンポでの4枚攻撃が機能している場面が多く見られた。(中略)核になっていたのが、今年代表初選出のセッター、籾井あき(JTマーヴェラス)だった。
日本代表の中田久美監督は、「ワンフレームに収まるバレー」を掲げ、1本目(サーブレシーブ、ディグ)からの速い攻撃展開を求めてきたが、これまで思うように結果につながっていなかった。しかし今年のネーションズリーグ後、「イメージ的には、籾井のテンポだと思います。籾井が、自分の感覚の中では(理想に)一番近いトスを上げ続けてくれたなと思っています」とうなずいた。
・・・籾井選手の今後には期待しましょう。パイプ攻撃を積極的に使えることも籾井の持ち味だ。(中略)
籾井は、少し1本目が乱れてミドルブロッカーが使えない場面でも、パイプを選択肢から消さない。
「ラリー中はAパス(セッターの定位置への返球)が返ることが難しい。そうなった時に1番速いテンポの攻撃がパイプ攻撃だというふうに認識して使っています」と言う。
東京五輪2020(2021)
大きすぎる古賀紗理那の不在…狩野舞子が感じるバレー女子代表の“もどかしさ”、次は日韓戦「何が何でも勝つ」という気迫を(Number Web/狩野舞子 2021.7.30)
・・・上で言ったように直前のNLを見れてないので、"崩れてしまった"とまで言い切れるようなビビッドな相対観をこのチームに関して僕は持ってなかったんですが。まあ煽るタイプの人でもないので、実際そう見えたんだろうなという。ケニア戦こそしっかりとストレート勝ちを収めたものの(3-0)、続くセルビア、ブラジルにストレート負け。大エースの不在により、徹底して積み上げてきたものが崩れてしまった。そう言っても大げさではないほど、これまでの全く違うバレーになってしまいました。
メンバーを固定してきたことが裏目に出てしまったのがブラジル戦でした。石井選手を含め、3セット目からはセッターに田代選手、オポジットに林選手を起用したことで、これまで固定してきた6人から一気に3人も代わったことになるわけです。その結果、コート内でうまく連係が取れず、相手のスパイクを目で追ってしまったり、ブロックフォローもつながらない状況に。もったいないプレーがとても多く見られました。
気迫問題1。ただ、ブラジル戦を見て、やっぱり気がかりなことがあります。
冒頭で「もどかしい」と言ったことにつながるのですが、それはオリンピックという大事な舞台で「何が何でも勝ってやる」という気迫が感じられなかったこと。1人のOGとして、大した実績のない私が言うのは本当におこがましいですが、特に「絶対勝つ」「相手をねじ伏せてやる」という目をしていたブラジルの選手たちとは対照的でした。
・・・最終成績:予選ラウンドA組5位
東京五輪後
バレー女子敗退の原因 中田久美監督が信じた「伝説」と現実の差(毎日新聞/小林悠太 2021.8.2)
・・・"80~90年代のやり方"なのかどうかは僕は見てないので分かりませんが、「職人的精度を命綱とする守備型のチーム」だというまとめは、僕自身も以前自分の観察を基にしてみたことはあります。ニュアンスとしてはやっぱり、"古い"というか"伝統芸"的な側に、競技の違いを越えて分類されそうではあります。中田監督は(中略)指導者としては一貫して、サーブレシーブを低い軌道でピンポイントにネット際のセッターに返し、速い攻撃を仕掛けるスタイルを用いてきた。自身の現役時代の80~90年代のやり方だった。
しかし、世界のトレンドは変わった。サーブの強さが増す中、強豪国は「サーブレシーブは真ん中に高く上げれば良い」という考えが主流になった。アタッカーに時間的な余裕を作り、常に4人のアタッカーが同じテンポで助走に入ることで相手ブロックの迷いを生じさせる狙いだ。攻撃は「速さ」から「シンクロ」がキーワードとなり、日本がかつて使っていた「時間差攻撃」は死語となった。
・・・それが2021年に入ってからの"先祖返り"したような発言の数々に繋がったわけですね。中田監督も18、19年の国際大会で思うような結果を残せず、19年終わりにスタイルを変えるか迷った。だが、20年の年明け、強豪国の集まる欧州の大会へ視察に行き、「外国のチームと同じことをやっていても勝てない」と考えた。あくまでもサーブレシーブの「速さ」と「低さ」にこだわった。
迎えた東京五輪本番。レシーブで余裕を「作らない」日本の攻撃パターンはレフト一辺倒となり、要所で相手ブロックに阻まれた。
なぜメダル期待の女子バレーが惨敗し不安視された男子バレーが決勝Tへ進むことができたのか…「機能しなかったベンチワーク」(THE PAGE 2021.8.3)
気迫問題2。バルガスの強烈なクイックはブロックに飛んだ島村の手にかすることもなくコートの真ん中で大きく弾んだ。19-25。実に25年ぶりとなる日本女子の屈辱的な1次リーグ敗退が決まった瞬間だった。直後にコートで泣き崩れる選手は一人もいなかった。勝ったチームが決勝T進出を決めるという大一番を制して狂喜乱舞するドミニカのメンバーとは対照的に日本の選手たちはコートエンドに淡々とした表情で横一列に並んだ。
・・・"植田辰哉氏"自身の信用性・発言資格については、僕は分かりません。男子の日本代表監督として北京五輪で指揮を執り、現在、大商大の公共学部教授で男子バレー部総監督の植田辰哉氏は、「どういうバレーをしたいのかというゲームビジョンがまったく見えなかった」と厳しい指摘をした。
「ドミニカの高さとパワーに対抗するには、戦術的な仕掛けが必要だったが、それが感じられなかった。アナリストから逐一データが届いているはずだが、それをベンチがどう受け止め、どう選手に伝えて作戦に落とし込もうとしたのかがわからない。厳しい言い方だが、そういうコミュニケーションを含めたベンチワークが機能しているように思えなかった。結果、試合を通じて、すべてが後手に回り対応、修正力に欠けることになった」
ドミニカは面白いようにパイプ攻撃やクイックを使い、真ん中の攻撃で得点を重ねたが、日本は最後まで対応しきれなかった。
「もっと山を張ったリードブロックとレシーブとの連携があってもよかった。ブロックの上から打たれるのであれば、まずサーブで崩さねばならないが、相手のローテーションを見据えて、誰がどう打つのかが徹底されていなかった。例えばライトを狙ってクイックを潰し、ブロックに2枚飛ぶなどの傾向と対策が見えなかった」
《バレーボール》なぜ男女で明暗が分かれた? 元代表・狩野舞子が語る「選択肢の多さ」と「気迫」(Number Web/狩野舞子 2021.8.3)
気迫問題3。正直に言うならば、最終戦(対ドミニカ共和国)でも「この試合に絶対勝つ」「何が何でも準々決勝に勝ち進む」という気迫が最後まで感じられませんでした。
一見すると精神論のようですが、実際は"気迫"の出しようが無いくらいチーム状態が悪かった、混乱していたということだろうと思います。ていうかまあ、本当に僕にもそう見えました。僕が見た"中田ジャパン"の全大会の中でも、一番に近くやる気が感じられなかったのがこの「本番」。
・・・そう言えば狩野さんは、久光で中田"監督"の下でプレーしたこともあるんですよね。そう考えるとよく書きますね。(笑)韓国は大会前にメンバーが代わるなど、プレーや連係にも粗さが目立ち、勝てない相手ではなかった。むしろ勝つべき相手だったと思います。
最後の場面でもレフトへの配球が続いたことで、韓国のブロックにタッチを取られ、切り返された。決められなかった石川真佑選手や、レフトを選択した籾井あき選手に責任があると感じている方がいるかもしれませんが、決してそうではありません。
何としても1点を取る。レフトにマークがついているのであればバックアタックやライト、ミドルを選択する。それがチームとして徹底・共有されていれば、あの大事な場面だからこそ選択できたはず。苦しい状況でも常に攻撃陣が助走に入っていた男子とは異なり、その助走すら入っていない選手もいました。
以上、最後の方は若干筆が走ってしまいましたが(笑)、基本的には注釈付き資料集です。
改めての"まとめ"とかは、するかなあ、しないかなあという感じ。まあしそうですけど。
『追加資料』
『まとめ』