![]() | サッカーで燃える国 野球で儲ける国―スポーツ文化の経済史 ステファン シマンスキー、アンドリュー ジンバリスト 他 (2006/02) ダイヤモンド社 この商品の詳細を見る |
原題は”How Americans Play Baseball and the Rest of the World Plays Soccer”。
・・・・うーん、これはこれで挑発的かも(笑)。”Rest”ってああた。
ちなみにサッカー部門はイギリスの、野球部門はアメリカの経済学者がそれぞれ書いているよう。”Football”ではなくて”Soccer”になってるのも、アメリカの読者を意識してのことでしょうね。
例によって特に面白かったところの抜粋&コメントで。
「はじめに」 より
「本書の執筆で明らかになったのは、あるスポーツのアイデンティティにとって極めて重要となっている伝統は、そもそも偶発的な事情から形成されたということである。野球はもっとサッカーのように、あるいは逆にサッカーはもっと野球のように、発展する可能性も十分にあったということだ。」
「伝統のなかには、スポーツの健全な発展にとって障害となったり、あるいは意義を失っているのに単に長く持続していたりするものもある。(中略)既成の伝統を支持する人は、はるか昔に亡くなった運営者が単に恣意的に制定したルールを、墨守しているにすぎないのだ。」 (ii~iii)
なぜそうなのか。本当にそうなのか。なぜそうなったのか。なぜそうでなくてはいけないのか。そうだとどのようなメリット/意義があるのか。これからどうすべきなのか。
観念と事実、モラルと目的の区別。手段の目的化の回避。
第1章 「これだけ違う2つのスポーツ文化」 より
「野球は一八五〇年代に、上位中流階級の余暇スポーツとして出現したが、すぐに下位中流階級にまで普及した。(中略)この段階(大衆化と選手の有給化)で野球は分裂した。野球のエリート性を維持したい上流階級は、プロチームを去っていった。」
「NL(現存する”ナショナル・リーグ”)は一八七六年に、野球選手の雇用に関して統制権を行使することによって、より良いより儲かる競技ができる、という考えの運営者によって創設された。(中略)このビジネスモデルは大成功を収め、競争相手を吸収破壊しただけでなく、アメリカのスポーツリーグの手本となったのである。」
「イングランドのサッカーも地位を意識する上位中流階級によって創設されたが、野球と異なり、純粋にビジネス志向の事業には発展しなかった。一流クラブが観客からお金を取り、選手に給与を支払うようになってからでさえ、自分たちはプロフィットセンターではなく、何よりもスポーツ組織であるという原則を堅持していた。」
「(サッカーも)アマとプロを分離するという野球と同じ道をたどる可能性があった。ところがその代わりに、一連のややこしい妥協を通じて、一体性が維持されたのである。例えばアマはプロと対抗試合をしてもいいし、プロのクラプは商業活動による利益について制限を受け入れたのである。」 (p.5~6)
結果、野球にない一体性は維持されたが、
「サッカーでは、財務的健全性を維持しながらビジネス的側面をどのように組織化するかについての学習が後手に回ってしまった。」
(以下p.7)
「アメリカでは人工動態上の著しい変化を受けて、新しい場所で野球への需要が高まっているが、経営がうまくいきそうな都市でのフランチャイズについては、チームオーナーたちは常に超過需要を確保しておけるように、拡大や移転を管理している。超過需要を背景に、MLBは各都市がフランチャイズ確保のために互いに競争するように仕向けることに成功しているのである。」
「その結果、チーム誘致がもたらす経済的社会的な利益をはるかに上回る公的資金が(スタジアム建設に)支出されている。(中略)結局、MLBの独占力が納税者を犠牲にして、スタジアムをめぐる経済を歪めているのである。」
・・・・これこそ”税リーグ”(笑)。オリンピック&FIFAW杯商法と言うべきか。
「サッカーは昇格・降格の制度があり、開放的なため、どの都市でも優秀な選手を招集しさえすれば、『メジャーリーグ』チームの本拠地になれる。このため地元に対し移転の脅しはまったく効かない。」
・・・・日本の現状では、そもそもチームを欲しがっているのが「地元」というより「有志」or「サッカー関係者」なので、それ以前ですが。学生サークルが予算欲しがってるのと大差ない。
とにかく”フランチャイズ”と”ホームタウン”は根本的に違うところがあるという話。
MLBはえげつないですが、比較してサッカーは伝統的に無策だとも言える。特に日本のような後発国の場合、サッカー的実体の薄い「地域」に「密着」しようとしている、需要の無いところに無理矢理供給しているという面が少なからずある。しかもそれを自覚していないか、経済ではなくてモラルの問題としてのみ認識している。いわく”密着の努力が足りないんだ”。
それとヴェルディの”東京移転”が良策か成功しているかどうかは、また別の問題ですが。
第2章 「スポーツがビジネスに発展する時」 より
・単発の対抗試合とカップ戦のみだったイングランドに出来たプロ「リーグ」”FL”は、当時(一八八八年)大成功を収めていたアメリカの(上記)”NL”を参考に作られた。
・それぞれのプロリーグが群立と潰し合いを繰り広げたアメリカ野球とは違い、イングランドにはアマも含めたサッカー全体の統括機構”FA”が先にあり、”FL”もその統括下に収まった。
・リーグ戦形式によりFLクラブの収益は安定化&激増したが、FAはその”企業”活動を強力に制限した。(”払い込み資金の5%を超える配当の支払いを行ってはならない””クラブの理事に対して給与を支払ってはならない”) ・・・・それによりサッカーは”儲からない”スポーツとなった。
・FAの傘下に入ることによりFLは競合リーグの出現を回避でき、また後発クラブに対する理論上無限の包容性と、「昇格・降格」システムによる「ディビジョン」制を持つ単一リーグになった。
どれだけの量になるか分かりませんが(笑)、面白いのでどんどんアップして行きます。(その2へ)
この本は図書館から借りてたことがあるんですが、第2章の野球黎明期の途中で挫折しました。(苦笑)
これを読むと、サッカーの方はおもしろいかもしれないんで、また借りて読んでみたいと思いますが...。
とはいえ概説的にするつもりはあまりないんですけど。基本美味しいとこどり。理解が浅いと概説的になる傾向が。(笑)
野球のパートはシステムが違うのと常識(的感覚)が違うのとで、理解するのも説明するのも結構ホネです。確実にサッカー側の常識の(意味の)理解の助けにはなりますが。