ヴェルディ等サッカー、漫画、アイドル 他
『サッカーで燃える国 野球で儲ける国』 その3
2008年01月13日 (日) | 編集 |
その1その2
こんな大仕事になるとは。面白いからいいけど。

第5章 「なぜ野球は儲かるのに、サッカーは儲からないのか」 より

1.儲かる野球

テーゼ1:野球は儲かる

「MLBのフランチャイズはだいたいにおいて儲かっている。筆者の確信の根拠は、野球が独占だという点にある。」
「さらに、消費者の利益を保護するために、政府が規制するのが普通なのに、野球は規制されておらず、独占者は自由に好きなだけ儲けることができる。」 (p.141)


「一九一五年にフェデラルリーグ(FL)の崩壊に伴い、MLBは競合がいない独占状態を築いた。」
「一九二二年以降、反トラスト法適用除外の恩恵も享受している。」 (p.141)


テーゼ2:オーナーたちは利益を隠す

「二〇〇四年まで、オーナーもコミッショナーも赤字であると主張し続けていた。」
(p.143)


(利益を隠す理由)

『収入シェアリング制度』(収入上位球団から下位球団への収入移転)対策
・より多くの公的支援を受けるため。
・選手との団交対策。
・反トラスト法適用除外を継続してもらうための、議会への申し開き。
・入場料や売店の販売価格の値上げの理由付け。


MLBオーナーが儲ける(or利益を隠す)カラクリ一覧

呆れつつ面白かったので、列挙してみます。

・RPT(関連当事者取引)

「オーナーがチームと取引する企業を所有していれば、RPTができる。オーナーはいわば自分と取引するわけで、価格は好きなように決めることができるのだ。」 (p.143)


典型的かつ効果的なのは、チームとそれを放送する放送メディアを同時に所有するケース。

「(シカゴ)カブスはトリビューン・コーポレーションによって所有されているが、同社は(カブス戦を放映する)WGNも所有している。トリビューン・コーポレーションは放映権料を、市場価格を下回る水準に設定して利益をカブスからWGNに移転しているのである。」 (p.143~144)


つまりカブスは受け取れるはずの額に満たない放映権料しか受け取らず、その差額はWGNの支出減=利益となる。・・・・もっと力技のも。

「二〇〇二年、トリビューン・コーポレーションはカブス戦入場券を、小売価格を大幅に上回る値段で転売するため別会社を設立している。この販売会社は額面四五ドルのヤンキース対カブス戦を一五〇〇ドルで販売した。」 (p.144)


・節税効果

「内国歳入庁(IRS)はチームオーナーに対して、フランチャイズ購入価格の半分を選手契約に帰属させ、通常五年間にわたる償却を密かに認めている。ドナルド・トランプがヤンキースを八億ドルで買収したと仮定すると、その内四億ドルは五年間にわたり毎年八〇〇〇万ドルずつ償却される。
もしヤンキースに、三〇〇〇万ドルの(中略)利益があったとしても、トランプはそれから八〇〇〇万ドルの償却「費用」を控除して、五〇〇〇万ドルの損失と計上されるのだ。さらに、トランプ個人の課税所得が五〇〇〇万ドルであったとすれば、それとチームの赤字を合算すれば、課税所得はゼロとなる。」 (p.146)


・自分への報酬

「チームオーナーは給与ないしコンサルタント料という名目で数百万ドルもらっているのが普通だ。このような『給与』支払いは、損益計算書では費用に計上されているため、公表利益は小さくなる。」 (p.147)


・自分への利息

「たとえば、あるオーナーは、自分も一員となっているパートナーシップによるチーム買収に関して、出資金として一億ドル拠出する代わりに、パートナーシップに金利一〇%で一億ドル融資することもできる。(中略)
チームのパートナーシップは(中略)一〇〇〇万ドルの利息を支払わなければならず、(中略)この場合、オーナーは報酬を利益ではなく、利息というかたちで享受することになる。」 (p.147)


・チームを担保として有利な融資を受ける。
・チームを売却する。(ある計算では、収益率は普通株の平均6.9%に対して12%前後)

・・・・一部法律違反にならないのが不思議な感じですが(笑)、現状通っているんでしょうね。
とにかく野球(MLB)球団経営は儲かる、選手もオーナーの余禄ですが高給がもらえる、しかし第1章でも述べたように自治体・地元は必要以上の負担を強いられている、ファンも価格面で密かに搾取されているというのが客観的なMLBの状況。(らしい)

日本のプロ野球も、ひょっとしたらJリーグも、知らないだけで陰で似たようなことやってるのかも知れませんけどね。
個人的にはトップカテゴリーのMLBはいいけれど、3A以下はどうなんだ、全部が儲からないと「野球が儲かってる」とは言えないんじゃないかと、それを筆者がほとんど気にしていないようなのもちょっと不思議でした。ここらへんはやはり、”MLB”=野球である野球ファンと、(野球で言えば)3A2Aくらいのクラブが標準で、例外的なクラブ/リーグとしてその上のクラスを考えるサッカー・ファンとの習慣の違いを感じます。


2.儲からないサッカー

サッカーの経済あれこれ

・施設利用

「アメリカでもヨーロッパでも地方自治体はスタジアム建設に対して資金供与しているが、前者ではスタジアムの管理に関して口出ししないのに対して、後者では大きな影響力を保持している。(中略)たとえば、自治体は入場料の引き上げを認めない、あるいはラグジャリーボックスの設置を阻止する、といった口出しをする。」

イギリス以外ではスタジアムの管理が自由でないことが、クラブの収入増加にとって重大な制約となっている。たとえば、マンチェスター・ユナイテッドの場合、一シートあたり年間一五〇〇ユーロ(一八六〇ドル)の収入があるのに対して、イタリアのクラブではわずか五〇〇ユーロ(六二〇ドル)にとどまっている。」 (p.157~158)


・・・・あれ、ちゃんと書いてありましたね。僕が推測するまでもなく。(笑)

・目的と投資

「多額の公的資金を受領しているにもかかわらず、イングランド以外ではサッカークラブの経理は不透明と言わざるを得ない。(中略)クラブはこの不透明の陰で、様々な奇策を弄している。しかし、一般大衆を犠牲にして大儲けしたということではない。サッカークラブを支配している人々の主たる動機は利益ではなくて、チームの成功に付随する名声である。」

「ほとんどのサッカークラブでは、理事や委員も金銭的な収益を上げることが自分たちの大きな責任だとは考えていないようだ。(中略)財務担当者もチームの地位向上のために、選手向け支出に最大限の財源を割り振りつつ、収支トントンを目指すべきである、というのが共通の意見のようだ。」 (p.158~159)


・・・・繰り返し的な話ですけど、オーナー/クラブの儲けではなく基本的に選手への投資に常に有り金はたく(笑)という慣行が、慣れている僕らには当たり前ですがMLB的な目では奇異に/馬鹿正直に映るようで。
背景的要因としては、上の『収入シェアリング制度』などによって、MLBにおいては「チームの強さ」と「儲け」の相関が必ずしも(サッカーほど)強くはないということがあります。
次はもう一つの興味深い相関の問題。

・給与と支出 ~”移籍金”という問題

「ヨーロッパのほとんどのサッカーリーグについては、クラブの給与総額だけでチーム順位の上下変動の八〇~九〇%を説明することができる。それに対して、野球では一九九四年以降について見ると、(中略)二〇~五〇%しか説明できない。」
「サッカーの方が相関関係が強いということは、選手は分相応の給与をもらっているという意味で、サッカー選手の市場が極めて効率的に機能していることを示唆する。」
(p.161)


「しかし、サッカー選手の相当数は移籍金の支払いを伴う移籍制度で獲得されているため、選手向けの支出総額(給与総額と移籍金の合計)とチーム成績の間に、密接な相関関係があるという保証はない。」
「移籍金の支出は(給与のように実績ベースではないので)本来的にリスキーな行為である。(中略)総収入のうち大きな部分を選手市場で(”移籍金”という形で)ギャンブルしてることを考えると、クラブの財政がしばしば不安定になるのも当然と言えよう。」
(p.161)


・・・・”人件費”という括りで一つにしがちですが、「給与」と「移籍金」(を加えた選手向け支出総額)が全く質の違う費用だという指摘は言われてみればその通り。同時に「移籍金」というシステムのある面での不条理さと。出来れば支出総額についても、相関の数値があると良かったですね。
本題の野球とサッカーの比較で言えば、儲かる/儲からないというより野球選手根拠の薄い高給をもらっているという実態が明らかになったような。


『放映権収入の拡大とリーグ&クラブ間格差』という、近年一番大きな経済問題(にして”財政問題”の本丸)については、次章でまとめて。


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