ヴェルディ等サッカー、漫画、アイドル 他
『サッカーで燃える国 野球で儲ける国』 その4
2008年01月14日 (月) | 編集 |
その1その2その3

第6章 「メディアがスポーツを変える」 より

1.ヨーロッパサッカーにおけるテレビマネー流入史

(1)黎明期(イングランド&W杯)

1937 BBCがFA杯決勝戦を実験的にテレビ放映
1948 英FL、リーグ戦のテレビ放送を全面的に禁止。(観客数減への警戒感から)
1954 W杯スイス大会の決勝戦が、初めてテレビ放送される。
1955 民放局ITVが設立され、FLと15万ポンドで26試合生放送の暫定合意に達する。
→しかしほとんどのクラブがカメラを拒否し、良いプログラムが組めずに頓挫。
1964 FLとBBC、年2万ポンドでのハイライト放送契約を締結。
1965 同様にITVと、日曜午後30分のハイライト放送について3000ポンドの契約を結ぶ。
1974 西ドイツ大会、初めて全試合生放送される。
1974 FIFA会長がイギリス人スタンリー・ラウスからブラジル人ジョアン・アベランジェに交代。
・・・・”英国紳士”から”辣腕ビジネスマン”の手に。それによって特にW杯の放映権料が急騰し、「テレビは儲かる」という”模範”が各国クラブ首脳に示される。
1960~80年代にかけて、各国家庭のテレビ保有率は飽和点まで上昇。

(2)各国のテレビ事情と民放化

ドイツ/公共放送局ARDによるハイライト放送。生中継はブンデスリーガ側が拒否。
イタリア/同様にセリエAの反対にあい、日曜夜のハイライト放送のみ。
スペイン/フランコ政権の政治的意向により、早くも1960年代から週1試合の生放送が日常化。(リーグ側はテレビ局から、入場料減少を想定した”補償”6億ペセタ(約5000万ドル)を前もって受け取っている。)

・・・・以上はいずれも国営/公共放送の話ですが
1980 シルビオ・ベルルスコーニ(伊)のフィニンベストが民間チャンネルを開設。
1983 ドイツで民間放送が許可される。
1984 フランスで民放有料局キャナル・プラス開設。
1988 スペインで商業テレビ許可。
1989 EUの指令「国境なきテレビ」、加盟国に各民間有料放送事業者への、国内市場に対するアクセス開放を義務付け。

(3)衛星/有料テレビの登場以後

(イングランド)
1988 英国初の衛星放送局BSB(のちのBスカイB)、英FLの放送権獲得に名乗りを上げる。
→失敗するも刺激を受けた地上波ITVは、年18試合4年契約4400万ポンドの、当時としては画期的な額で生放送契約を結ぶ。
1991 FA「サッカーの将来に関する草案」発表。その提言を受けて、
1992 FL1部(当時)を、放映権契約を自由化した”プレミアリーグ”に。リーグ/クラブは契約局の自由選択と放映権料を総取りする権利を得る。
・・・・地上波ITVと衛星局BスカイBがほぼ同額(1億9200万ポンド)で争ったが、トッテナムオーナーアラン・シュガーのコネでBスカイBが勝利。プレミアリーグは有料放送に
以後放映権は高騰を続け、2001年には7億2000万ポンドに。

(フランス)
有料局キャナル・プラスが1984~99年までの国内リーグ独占放送権を獲得し、ペイパービュー方式を確立。その後後発デジタル衛星局TPSとの競争もあり、放映権料は高騰し続けた。

(イタリア)
1993年、初めて有料のリーグ戦生放送が実現。1996年には全試合ペイパービュー観戦方式が確立、放映権も急騰。

(ドイツ)
1991年、有料生放送開始。2000年、キルヒがブンデスリーガ全試合ペイパービュー独占生放送権獲得。


2.1によって起こったこと

(1)リーグ/カテゴリー格差の拡大とクラブ経営の不安定化(主に第5章より)

(イングランドの例)
莫大なテレビ放映権契約によって、プレミアのみが突出して豊かになる。(選手の質も上がる)
→それによって特に昇・降格圏のクラブの経営が極端に不安定化
・降格しない為の(選手への)過剰投資。
・同様に昇格する為の過剰投資。→昇格失敗すると一気に危機に。
・昇格に成功しても、選手の質が違い過ぎる為更なる投資負担(さもなければ即時の再降格)
・降格した場合、極端な収入源に対応する為、従来以上の選手の投げ売り状態になる。

#2000~2004年には、イングランドの全92のプロクラブの内19クラブが、「財産管理」と呼ばれる一種の”破産”・立て直し手続きを受けた。(それ以前には全歴史でも数えるほど)

(イタリアの例)
イタリアでも同様のカテゴリー間格差が見られるが、特徴的なのはテレビマネーで潤っているはずのセリエA(のトップクラブ)にも財政危機が蔓延していること。背景としては
・’92年に改編された、UEFAチャンピオンズリーグ(のテレビマネー)というインセンティヴ。
・と、それをめぐる英プレミアとの資金力格差。→借金でそれを埋めようとした。
・伝統的に政治と深く結び付いて、公的資金により財政危機を凌いできた手が、EUの圧力等により使いづらくなった。(またそうした伝統による、ずさんな財務体質)

(その他)
・イタリアの例にある公的資金投入に関する趨勢の変化は、最近5年間で5つのクラブが破綻したベルギーなど、ヨーロッパ(EU)中に影響が見られる。
・フランスではクラブ財政が厳しい国家統制下に置かれて安定しているが、その分選手投資に限界があり、リーグの魅力・観客動員力を欠くことになっている。
・2002年にイングランドのITVデジタルとドイツのキルヒが相次いで過払いによる破産状態になり、放映権料そのものの安定・妥当性にも、疑問が呈されている。

・・・・まとめて言うと、テレビマネーの流入・増大によって
 ・国内のカテゴリー格差
 ・各国リーグ間の格差
 ・チャンピオンズリーグと国内リーグの格差

それぞれが爆発的に拡大して、(ヨーロッパ)サッカーは一種引き裂かれた状態にある。

更に言えば、そもそもテレビマネーによって経済規模が別物のように巨大化したことによって、伝統的に儲けとは無縁であったサッカーは、初めてMLBと比較して経済学者が関心を持つような対象になった。
そしてそれはつまり、いよいよ本格的にサっカーも「経済学」を必要とする段階に来たということではないかと、それがこの本の基本的主張、観点。


(2)ファン・消費者への負担増

利益に目覚めたトップクラブ/リーグによる入場料等の引き上げや、そもそもの(”1”で見た)有料視聴の常態化ということですが、経済タームとしてはともかく、現実的にはまださほど大きな問題とはなっていない模様。
勿論ファンは有料化や支出増に影響を受け、プレミアなどでは観客層の変化(中・上流化)も実際に起こっているが、慨して忠誠心の高いサッカー・ファンは自らの負担増には鈍感で、少なくともクラブ経営自体の問題と比べれば重要視はされていない。


ここらへんのサッカー・ファン心理の問題も、まとめて次回で。(最終回の予定)


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